MOVIE 私の好きな、あの映画。
’90年代のミニシアターでスタンディングオベーションした『世界中がアイ・ラヴ・ユー』/ファッションデザイナー 弓削匠さんが語る、 極私的・偏愛映画論。June 25, 2026
This Month's Favorite Theme’90年代のミニシアターとウディ・アレン。

’90年代の東京には、約40〜50館のミニシアターが存在した。
ミニシアターの定義として、小規模な館で大手配給会社の娯楽大作ではなく、フランスやアメリカのインディペンデントな作品を上映する映画館のことで、当時のミニシアターは単に映画を観る場所ではなく、映画から音楽、文学、ファッションに出合うための文化の入り口であったように思う。それらの映画を観に行く時にはある種の覚悟のようなものを抱いて観ていた気さえする。
その時代は、いわゆる「渋谷系」音楽のムーブメントが勃興し、その一環として、ヌーヴェルヴァーグをはじめとした’50年代後半から’70年代の自由で実験的な世界中の映画がたくさん掘り起こされ、そこら中のミニシアターで上映されていた。それらの映画は音楽や文学と共に紐付けられ、「渋谷系」という少しスノッブで洒脱な文化的うねりと言ってもよい一大カルチャーとなった時代である。
その時代、僕も御多分に洩れずあらゆる東京のミニシアターへ狂ったように通った(必ず前売り券を買い、チラシとパンフレットの3点を収集し今も保管してある)。その中でも、僕好みの映画をよく上映していた渋谷スペイン坂の『シネマライズ』『シネ・ヴィヴァン六本木』『吉祥寺バウスシアター』は閉館して今はもうないが、当時から通っていたミニシアターで今現在も営業を続けている場所がある。
1994年に恵比寿ガーデンプレイスの開業と共に作られた『恵比寿ガーデンシネマ』である。
このミニシアターはウディ・アレン作品の主要な上映館の一つである訳だが、1997年、僕にとって最も印象に残る映画がここで公開された。その映画は、ウディ・アレンが初めてミュージカルに挑んだ『世界中がアイ・ラヴ・ユー』。あらすじは割愛するが、豪華過ぎる的確なキャスト、自身もクラリネット奏者であるウディならではの選曲、敢えて俳優に歌わせるスタンダードナンバー、ニューヨーク育ちの映画マニアであるウディにしか描けないミュージカル、そしてニューヨーク。全てがお洒落で完璧。この映画を『恵比寿ガーデンシネマ』で観終わった後、観客全員が多幸感に溢れて、スタンディングオベーションが起こった。僕も自然と立ち上がり、半べそかきながらスクリーンに向かって拍手を送っていた。
こんな経験は後にも先にもこの時だけである。かの淀川長治も泣いて大絶賛したと物の本で言っていました。今になって思うと、あのスタンディングオベーションはカルチャー好きが集うミニシアターでしか起こり得ない一体感であったように思う。なぜなら、ウディの作品は’70年代から今にかけて全世界のアート系シアターでカルチャー好きに支持されているわけだから。

『世界中がアイ・ラヴ・ユー』
Director
ウディ・アレン
Screenwriter
ウディ・アレン
Year
1996年
Running Time
101分
illustration : Yu Nagaba movie select & text:Takumi Yuge edit:Seika Yajima































