花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
ゆかしい「亥の子かざり」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.64January 05, 2023
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
ゆかしい「亥の子かざり」。
折々の季節を伝えてくれる菓子がある中で、11月には亥の子餅が欠かせない。茶の湯の炉開きにも使われるこの餅の歴史は古く、亥の月、亥の日、亥の刻に食べることで無病息災を祈願した古代中国にルーツを持つ。平安時代に日本へと伝わり、亥の子に似せた餅を食べる宮中行事・御亥猪となったのだ。その年の新米と大豆・小豆・大角豆(ささげ)・胡麻・栗・柿・糖の7種類の粉を合わせて作られたと伝わる亥の子餅は、菓子店ごとの個性をもって今に受け継がれる。
一方で『源氏物語』第9帖「葵」にも登場する御亥猪を再現するのは護王神社の亥子祭。祭神の和気清麻呂公が猪の助けで難を逃れたことから猪に縁が深い神社の神事は、境内で搗(つ)いた餅を御所へ献上し、雅な時代を偲ばせている。
秋が深まり、温もりが恋しくなる時季のあしらいは亥子祭にちなみ藁で仕立てた猪。その猪を包むようにあしらったのは萩の花。「和歌こそ なほをかしきものなれ。あやしの賤・山がつの所作も、いひ出でつればおもしろく、恐ろしき猪のししも、『臥猪の床』といへば、やさしくなりぬ」と『徒然草』にあるように、古来、臥猪の床=猪の寝床といえば萩のこと。萩と取り合わせ、優雅さを漂わせる猪となっているのだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2020年12月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。