花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」

静謐と祈りに満ちた「茅の輪」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.72March 02, 2023

花屋<みたて>に習う植物と歳時記 折々に見立てる 京の暮らし

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

静謐と祈りに満ちた「茅の輪」。 みたて

静謐と祈りに満ちた「茅(ち)の輪」。

 今こそ厄払いをと願う気持ちは、コロナ禍が続く今年も変わらずに強くある。茅の輪をくぐり身についてしまった罪や穢れを祓い、無病息災を祈る夏越(なごし)の大祓(おおはらえ)は、毎年6月30日に行われる行事。とはいえ昨年は祈願の場として、茅の輪を境内に長く置いた神社もあった。
 茅の輪の起源は素戔嗚尊(すさのおのみこと)が親切を受けた蘇民将来(そみんしょうらい)に、もし後の世に疫病が流行ることがあれば、蘇民将来の子孫の目印として茅の輪を身に着ければ免れさせると約束したことと伝わる。この連載の初回でも茅の輪を取り上げ、植物の生命力を感じさせる小さな茅の輪を初夏のあしらいとして見せた。それから6年を経て改めて仕立てた厄除けのあしらいは、初夏に葉とともにすっと伸びる茅萱(ちがや)の穂が主役。実は茅萱は古くから日本人に馴染みが深く、大伴旅人の故郷を懐かしく思って詠ん
だ「浅茅原 つばらつばらに 物思へば 故(ふ)りにし里し 思ほゆるかも」をはじめ、万葉集にも多くの歌が収められているほどだ。光を受けて輝き、風にそよぐ穂の姿に、古の人々は神々しさを感じたのかもしれない。
 茅萱の穂だけを使い、輪になるように仕立てた新たな「茅の輪」。今だからこそ込める祈りの気持ちと、植物の造形美を備えている。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2021年8月号より。


花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

hanaya-mitate.com

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