小林エリカの文房具トラベラー
小林エリカの文房具トラベラー vol.16「封筒」&STATIONERY / November 23, 2021
封筒を開けるという行為は、プレゼントのリボンをほどくのとおなじくらい、そう、恋人の洋服を脱がすときみたいに、ドキドキしてしかるべき瞬間だと思う。中に入っているのはどんな手紙かしら、ラブレターかしら。いや、たとえそれが請求書であろうとも、私ががっかりしないのは、封筒そのものが好きだから。切手やそこに押されたスタンプが可愛いだけで、もうそれがそのままメッセージ(と勝手に解釈)。
特に私が好きなのは二重封筒の内側。そこにある色や印刷されている文様。ごく普通の白い封筒の中に隠され潜む三角地帯、ブルーやパープルのチェックやストライプ。時たまそこがゴールドだったり赤だったり。ルブタンの靴底が赤くて可愛い、学ランの裏側は龍刺繍、みたいな感覚だろうか。
確実に同様の萌えポイントを持つ人は世界にも存在するようで、イギリスの詩人でアーティストのサイモン・カッツが主宰するプレスCoracleの本に、封筒の中の紙の文様ばかりを集めた『Airmail Envelope Interiors(2002)』という本があるのですが、それには悶えましたね。
edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.17 2015年 5月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。
作家・マンガ家 小林 エリカ
シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。