イラストレーター 塩川 いづみ


April 26, 2018 世界の秘密を知っていそうな彼ら 塩川いづみ

2018.04.26

世界の秘密を知っていそうな彼ら

世界ラン展に行った。花の展覧会と聞いて昔祖父に連れられて見た菊花展を想像したけれど、会場の東京ドームは万博のような賑わいだった。高価な着物のように陳列されたランもあれば、風鈴売りのようにカラフルなランも揺れている。かと思えば花すらなく密林のような野性味溢れるブースもある。国ごとの展示ではそのお国柄も楽しめた。世界中に膨大な種類があるラン。形態の多様さにも魅了されるのだろう、この会場がその振り幅の大きさを物語る。植物らしからぬ色気、なんて美しくて自由な根…帰る頃には私もまんまとランの手中に落ちていた。

 
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Ooi Leng Sun Orchidsでマレーシアから来たランを買った。育てられるだろうか。

January 25, 2018 Flowers bloom 塩川いづみ

2018.01.25

Flowers bloom

年が明けてすぐ、ある雑誌の企画で南インドへ飛んだ。こちらの女性たちは色とりどりのサリーに身を包み、髪には生花を飾っているのがとても美しく印象的だ。お寺の近くでは神様への捧げ物として花が売っている。匂い立つジャスミン、鮮やかで大輪のマリーゴールド、デイジーのような小花が山のように。彼女たちはお祈りをして身にもつけるのだろう。あるマダムのお宅に伺った時にあなたにも神のご加護をと白い花を髪にさしてくれた。花は美しく香り、しかし夕方にはしおれてしまった。でもその刹那的な美しさに、女性を色っぽくみせるこれ以上の飾りはないだろうと感じたのだった。

 
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フェスティバル会場にいた学生さん。うす紫の花が黒髪に映えて綺麗。

October 26, 2017 Women’s Art 塩川いづみ

2017.10.26

Women’s Art

今年の夏に南インドへ行った時のこと、村を歩くと各家の玄関先に様々な美しい文様が描かれていた。聞くとこれはコーラム(kolam)といってヒンドゥー教のならわしだという。家族の幸せを祈り、また魔除けとして毎日朝晩コーラムを描くのは女性の役目。そして文様は母から娘と受け継がれていく。女性の日々の中で綿々と伝えられてきた芸術、ぜひ体験したいとお願いして叶った最終日。私が線を描いているとインド人の女性が加わり自然とセッションになった。言葉は交わさなかったけれど、この旅で初めてつながれた気がした時間だった。

 
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ちょうどガネーシャのお祭りの日だったのでガネーシャを描く。道具は使わず、粉で地面に絵を描くというのが新鮮だった。

July 24, 2017 草木の色気 塩川いづみ

2017.07.24

草木の色気

近所に住む知人宅で大きな枇杷の木の剪定があり、袋いっぱいの実と葉をいただいてきた。傷みやすい果実は美味しさが逃げないうちに食べて、種と大きな葉は焼酎漬けに。そしてここからが一番の愉しみ、染め支度だ。枇杷の葉は刻んで煮出していくと、まるで魔法のように赤い色が現れてくる。布をひたすと深緑色からは想像ができない綺麗なサーモンピンクに染め上がる。草木が秘めている色を露わにして染めるだなんて、秘密を共有するようなどこか背徳的でなんて甘美な時間だろう。3日ほど置いて美しい染汁が出来上がり、私は下着に魔法をかけた。

 
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​木の皮を煮出すともっと濃い色になる。絵の具も作れるのだと知り実験中。​

May 15, 2017 THE SECRET OF SIMPLICITY 塩川いづみ

2017.05.15

THE SECRET OF SIMPLICITY

松屋銀座で開催されていたディック・ブルーナのデザイン展「シンプルの正体」を観た。絵本作家であり、グラフィックデザイナーである彼の画面の作り方が「大胆な省略」「知らせる色」「空想をつくりだす形」などでカテゴライズし解説されていて、絵を描く立場としてもとても興味深く入り込めた。中でも「余白をつくる線」のテキストでは思わずメモを取った。線には人間性があらわれる、から始まる一見簡単な文章だが、線一つとってもその域に達するまでの見えない手の数は想像を超えているだろう…。シンプルの正体、ここ にあり。長い道のりの先にブルーナさんの笑顔があった。

 
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シンプルこそが難しい。

イラストレーター 塩川 いづみ

イラストレーター。東京在住。
広告、雑誌、商品などで活動するほか、展示会で作品の発表もしている。
2018年4月28日ー5月6日 西荻窪の364にて個展「花卉」を開催。

shiokawaizumi.com

Latest Issueエレガンス、であること。2023.09.20 — 920円