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哲学者・永井玲衣さんに聞いた、いい仕事をするために大切にしていること。コミュニケーションに広がりをもたらすには。June 14, 2026
さまざまな分野で活躍する人の働く姿勢や生き方を尋ねた&Premium151号(2026年7月号)「仕事と生き方」より、哲学者・永井玲衣さんの「いい仕事をするために、大切にしていること」を紹介します。
沈黙にさえ耳を傾ける姿勢が、コミュニケーションに広がりをもたらす。
—「言語化」や「伝える力」がビジネススキルとして重視されがちな時代。哲学対話やポッドキャスト、執筆など、日々言葉を扱う永井さんは上手に言葉を紡ぐために、何を大切にしていますか。
永井玲衣 私は話すことがあまり得意ではなくて。だからこそ、大切にしているのは聞くことです。
—聞くこと、ですか。言語化の時代においては、正反対の考え方のようにも感じます。
永井 「どううまく伝えるか」というスキルに注目が集まるほど、私たちは「どれだけ聞けているか」という問いを置き去りにしている気がします。言葉って一方通行ではなくて、誰かに受け止められて成り立つものですよね。人前で話すことが苦手だった私が、対話という場を開くようになったのも、私の声を受け止めてくれる場と出合ったことがきっかけでした。たどたどしくても、自分の中にあるものをなんとか言葉にしようとする。そのとき、ちゃんと聞いてくれる人がいれば、人は自然と伝えたいという気持ちが湧く。そうやって出てくる言葉は、どこか文学的で、その人にしかない表現になっていくと思っています。
—聞いてもらえることが、言葉の質を変える?
永井 はい。私は普段から様々な立場の方とお会いしますが、「自分の話は聞かれていない」と感じている人がすごく多いです。そんな中で、「もっと上手に話せ」と求められるのはとても苦しい。聞かれるということは、その人の尊厳に関わります。だから、私は話し手としてどう振る舞うかよりも、よい聞き手であることを大事にしたい。そして、よい話し手は同時によい聞き手なんですよね。相手の言葉だけじゃなくて、自分の声も聞き、そして、その場の沈黙にも耳を澄ませられる。
—沈黙でさえも〝聞く〞のですね。
永井 沈黙はただの空白ではなくて、何かが生まれかけている時間だと思うんです。そこから形になっていない半熟の言葉が出てくることもある。そして、口に出してなお言葉は変わっていくものだとも思っていて。対話の場では、誰かがぽつりと置いた言葉に、別の人が言葉を重ねることで、「あ、私はこう言いたかったのかも」と気づくことがあります。つまり、一人ひとりが「自分の言葉」を占有し、それを見せ合うのではなくて、みんなで一緒にこねて形にしていくような。だから、形になっていない言葉に耳を傾けたり、待つことも聞く力であり、話す力につながるのではと。
—現代のコミュニケーションは、どうしてもスピードやわかりやすさを求められがちですよね。
永井 わかりやすく、すぐに伝わることばかりが重視されると、その途中にある迷いや違和感、言い淀みのようなものが、切り捨てられてしまう。人の話をじっくり聞く前に沈黙を埋めようとして話しすぎたり、つい誰かの言葉を借りたり、「結局人それぞれ」と結論づけて対話を終わらせたり。でも本当は切り捨てた部分にこそ、その人にしかない思いや感情があるはず。待つ時間も大事にする対話の場では、誰かが思いがけない言葉をぽつりと出すことがあります。本人も「なんでこんなことを言ったんだろう」と驚くような言葉。でもそれが、心の奥にあるものに触れている、すごくその人らしい表現だったりするんですよね。
—そうした言葉が生まれ、大事にするためにも、「聞かれる場」が必要だと。
永井 ちゃんと聞いてもらえる場では、無理にうまく話そうとしなくても、その人の言葉が立ち上がってくる。だから私は、言葉を磨くこと以上に、「こんなふうに聞いてもらえた」という体験を持つことが大事だと思っています。その体験があるだけで、言葉に対する不安や恐れは、少しずつ小さくなっていくと思うので。
—では、いざ話をする場面ではどんな姿勢でいればいいと思いますか。
永井 シンプルに言えば、自分の言葉で話そうとすることだと思います。ただし、それは何か特別なオリジナルの言葉をひねり出すという意味ではなくて、「私はこう思う」と、自分を主語にして話すこと。完璧に考えが整理されていなくてもいいし、上手に言えなくてもいい。むしろ、その拙さの中にしか出てこないものがあると思う。そして、聞くというのは受け身の行為ではなくて、想像力を使いながら、その人の奥行きを信じることでもある。「この人には、まだ言葉になっていない何かがあるはず」と思いながら耳を澄ませ、慮(おもんぱか)る。そうした態度で言葉を交わすことが、コミュニケーションを豊かにするのではないでしょうか。
永井玲衣哲学家
1991年東京都生まれ。哲学対話の場を各地で開く。著書に『水中の哲学者たち』 (晶文社)、 『世界の適切な保存』(講談社)ほか。長井優希乃とのポッドキャスト『Wナガイと哲学対話』(J‒WAVE 81.3FM)は第2・4火曜に配信中。
photo : Hinano Kimoto text : Mariko Uramoto cooperation : J-WAVE



































