あの人が大切にしている、暮らしの本。
哲学者・永井玲衣さんが大切にしている、心の本。『言葉』August 09, 2023
![永井玲衣_言葉_最後まで達することのできない、このしぶとい抵抗が私は好きだった。欺かれ、疲れ果て、分からないようで分かるという曖昧な逸楽を私は味わった。それが世界の厚みだった。「I 読む」より 永井玲衣_言葉_最後まで達することのできない、このしぶとい抵抗が私は好きだった。欺かれ、疲れ果て、分からないようで分かるという曖昧な逸楽を私は味わった。それが世界の厚みだった。「I 読む」より](https://img.andpremium.jp/2023/07/20211428/606265f6c6d0acd42797ad122316960c.jpg)
日常にある問いを見つけ世界の厚みを信じる。
高校時代に出合って哲学の道に進むきっかけになったサルトル。『言葉』は虚構の混ざった自伝で、夢中になって読みました。たとえば、わからない状態は本来であれば苦しいものだけれど、そのしぶとい抵抗が好きだと言っていて、ずっと思っていたことが言語化された気持ちになりました。わかることのほうがむしろ不安で、わからないことのほうが救いであり、それは世界の厚みです。哲学は「そういうものだ」とされることに、「本当に?」と問い探究していくものであり、世界の厚み、奥行きを信じること。それをしぶとい抵抗と表現しています。哲学者は「わからない」を最初に見つけ、誰かと一緒に考えようとする人。自分も日常に溢れるわからなさに対し、人々と思考することを大切にしています。
![Nagai-books](https://img.andpremium.jp/2023/07/20213533/b1627cb615c5a93f50f60f35e255ab87.jpg)
『言葉』 著 J-P・サルトル 訳 澤田 直 (人文書院)
![Rei Nagai](https://img.andpremium.jp/2023/07/20213536/e2b626996c085c8ce739235257e5d824.jpg)
永井玲衣 Rei Nagai
哲学者。哲学研究をしながら、学校などで哲学対話のファシリテーターを務める。2021年に初の哲学エッセイ集『水中の哲学者たち』(晶文社)を上梓。集英社読書情報誌『青春と読書』で「問いはかくれている」を連載中。
illustration : Shapre text:Watanuki Akane edit : Wakako Miyake