あの人が大切にしている、暮らしの本。

文筆家・大平一枝さんが大切にしている、住まいの本。『食べごしらえ おままごと』August 28, 2023

大平一枝_食べごしらえ おままごと_薬湯の香りが家中に漂っていた。まだうら若い母の体臭とそれはいれまざって、うるおった空気が、貼りかえたばかりの障子や、床に置かれた高脚の宗和台や御器椀類を、しっとりと落ちつかせていた。

家の内外に流れる香りで生活に思いを馳せる。

著者が幼少期に過ごした水俣の家のことを書いているエッセイ集ですが、昭和の一軒家の様子がありありと目に浮かんできます。歳時記をとりわけ大切にする家だったということで、七夕に大きな笹を準備したり、十五夜のお団子をいくつも作ったり。その描写が非常に具体的で緻密。だから、団子をたくさん飾る場所があるんだろうとか、半畳くらいの陰の間があるなど、その描写から当時の生活が透けて見えます。直接家の作りのことは書いていなくても、私にとってこれも住まいの本だなと思いました。特に家の内外に漂っている匂い、湯気や煙などの空気感は住まいのありようそのもので、頭の中に想像が広がります。2 年前くらいに読みましたが、それ以降、季節の行事を楽しめるようになってきました。

Odaira-books

『食べごしらえ おままごと』 著 石牟礼道子 (中公文庫)

Kazue Odaira

大平一枝 Kazue Odaira
文筆家。編集プロダクションを経て1995年にライターとして独立。『ただしい暮らし、なんてなかった。』『東京の台所』(ともに平凡社)、『それでも食べて生きてゆく 東京の台所』(毎日新聞出版)など著書多数。

illustration : Shapre text : Akane Watanuki edit : Wakako Miyake

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