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極私的・偏愛映画論『ブルーアワーにぶっ飛ばす』選・文 / 石田真澄(写真家) / August 25, 2020

This Month Theme生き方に心打たれる。

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生きることが下手でも、自分と向き合って生きていく。

 『ブルーアワーにぶっ飛ばす』の主人公の砂田は、30歳でCMディレクターをしている。周りからは、“止まったら死ぬマグロ”の様と言われるほどがむしゃらに働き続ける日々。仕事に情熱を注いでいるように見えながらも、心は満たされず、荒んだ生活を送っていた。ある日、砂田は病気の祖母に会いに行くために親友の清浦が運転する車に乗り、地元の茨城に戻ることから話が進んで行く。

 砂田の気を遣いながら笑顔を振りまく姿。思ってもいないのに「楽しいです」と笑顔で答えてしまう裏腹な態度。地元の家族とのコミュニケーションの取りづらさや親族の生死に正面から向き合えないことなど、日常の中での生きづらさや不器用なコミュニケーションがストレートに描かれていく。

 その生き方や人との接し方は、どこか自分と重なるようなところがあると感じながら、この映画を観ていた。砂田と正反対である清浦は、砂田の実家や祖母の病院に行っても、ずっと“ありのままの自分”でいるように見えた。その姿は、ふだんの私とも全然違っていて、「そんな風に生きてみたい」と思った。清浦は思ったことをその場でまっすぐに伝えているが、誰も傷ついていない。私は思ったことをストレートに伝えるのが苦手で、まっすぐに伝えようとすると言葉選びを間違えて誰かを傷つけてしまうことが多い。

 清浦を見ていると、清浦のような生き方や人との接し方に憧れを持ってしまう。どんな場所に行っても、自分がある人は羨ましいと思う。

 砂田はこれまで避けていた地元や家族と向き合うことで、自分自身に向き合い始めていた。砂田のようにどこか自分と重なる人が変わっていく様子を見ていると、私も自分自身と向き合いたい、と切に思ってしまう。

 自分と向き合うということは、簡単なように見えて、なかなかできないことだと思う。清浦のようにありのままの自分で生きることや、砂田のように生きることが下手でも、自分と向き合おうとしながら生きていることに憧れを持つ作品だ。

illustration : Yu Nagaba
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夏が舞台の作品。実際に夏に撮影していたらしく、夏の朝焼けや風景が象徴的に描かれている。実家の雰囲気がまさに北関東、という感じで埼玉県在住の自分には笑ってしまうシーンも多々ある。
Title
『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
Director
箱田優子
Screenwriter
箱田優子
Year
2019年
Running Time
92分
DVD 3,800円(税抜)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
販売元:TCエンタテインメント
(C)2019「ブルーアワーにぶっ飛ばす」製作委員会

写真家 石田 真澄

1998年生まれ。2017年5月自身初の個展「GINGER ALE」を開催。2018年2月、初作品集「light years -光年-」をTISSUE PAPERSより刊行。2019年8月、2冊目の作品集「everything with flow」を同社より刊行。雑誌や広告などで活動。

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