〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景
両足院はんげしょうの宝珠〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景 vol.7June 15, 2022
京都で和菓子の制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子で表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。
両足院
はんげしょうの宝珠
禅寺のひとつ、両足院の庭に生える半夏生という植物。七十二候の半夏生、つまり夏至の頃から7月頭まで、葉を半分白く染めることから半化粧(はんげしょう)と呼ばれている。ドーランを塗ったかのように青々とした葉が白く染まる様子は、毎年目を疑ってしまうほど。この時季に両足院は夏の特別公開として開放され、静寂に包まれ風に揺れる白い半夏生の庭が、不思議と暑さを落ち着かせてくれる。実は葉が白く染まるのは、科学的にいえば虫を呼ぶためだそう。人も虫もこの白さに魅了されていると思うと、白く化粧した植物の誘惑のようだ。
仏教には、手に入れるとどんな願いも叶うといわれる「宝珠」という概念がある。庭を見た人々が宝珠を持ち帰るようなものになればと、半夏生の葉で作る宝珠の姿を菓子で描いた。白い琥珀糖を三角錐の形に組み立て、中には緑のピスタチオを忍ばせる。噛むとシャリッとみずみずしい食感の中に、ピスタチオの旨味が口の中に広がる。
7月半ばを過ぎると葉は枯れ始めるが、静寂の中に見た美しい白い葉の記憶は、次の半夏生の頃まで染まったままだ。
『両足院』京都市東山区大和大路通四条下る4丁目小松町591 ☎075‒561‒3216 通常は非公開。半夏生の庭園特別公開は6月1日〜7月10日。
photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2022年7月号より。
和菓子作家 杉山早陽子
1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。