〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景

明恵上人が一輪のスミレに見出した宇宙を、羊羹の一皿に。
―京都・栂尾 高山寺―〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景 vol.15March 27, 2023

〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、自社仏閣の風景
〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、自社仏閣の風景
京都で和菓子を制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子と文とで表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。
高山寺 菫の宙 御菓子丸

高山寺(こうさんじ)
菫の宙(すみれのそら)

 

 京都・栂尾にある高山寺。国宝の鳥獣人物戯画が伝わる場所、あるいは日本最古の茶園として有名だが、山の中に聳え立つ寺から見える景色はとても印象深く、人に勧めたくなる。隣の山を背景にして、さらさらと降る春の雨は、ここからしか
見られない景色だ。向かいの山に咲くヤマフジの美しさも忘れられない。寺までの道中でも存分に自然を味わうことができ、苔や草木の緑に足を止められてしまうゆえに、なかなか前に進まず、自ずと寺までの道のりが長くなる。
 この寺を開山した明恵上人はこの自然の中で暮らし、森に咲く一輪の菫の花の中に宇宙を見いだそうとした。微塵の中に一切を見る「一即多」(いっしょくた)という考え方で、上人が悟りを開くにはこの山の自然はなくてはならないものだったのだろう。
 上人が菫の花と出合った瞬間を想像し、菓子にした。寒天で作った一滴の雫を宇宙に見立て、そこに実際の菫を閉じ込める。雫を受け止めるように、苔や草木の緑をイメージしてヨモギの柔らかい羊羹を作った。明恵上人が菫を通して見た宇宙を、この菓子を食べながら想像していただきたい。

世界遺産のひとつ。▷ 『高山寺』京都市右京区梅ヶ畑栂尾町8 ☎075-861-4204 拝観8時30分〜17時 無休 拝観料800円 秋期別途入山料500円

photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2023年5月号より。


和菓子作家 杉山早陽子

1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。

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