〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景

紫の味〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景 vol.5April 15, 2022

〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、自社仏閣の風景
〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、自社仏閣の風景
京都で和菓子の制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子で表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。
紫の味 御菓子丸

紫の味

 アヤメ科の中でも、その年の一番初めに咲くことから名付けられた「一初(いちはつ)」。なかなかお目にかかれないこの花の、群生を見られるのが上御霊神社の名で知られる御靈神社だ。戦前、社の堀には水が流れ杜若(かきつばた)が咲いていたが、戦後は水が枯れてしまったため、20年ほど前に同じアヤメ科の一初を植えたという。神社を囲う鮮やかな紫と緑の景色は、杜若のときもきっと同じだったのだろう。
 春になると黄色の花が咲き、次に紫の花が咲く。そんな季節の色の移り変わりに気付いたのは、和菓子を作り始めて数年経った後のことだった。なぜそんなふうに咲く花の色が変化していくのだろうか。そもそも、理由なんてないのかもしれない。それでも、この紫と緑の風景を菓子にしたいと考えたとき、食べられる紫の花を探してみたら、や っぱり晩春に数多く揃っていたのが興味深かった。
 土の香りのする水羊羹の上に薫風を思わせるきんとんを敷き、紫の花をあしらう。祭神の御霊を鎮めるとともに、参拝者の心も自然と静まるとされる社。この菓子も、口にする人の「こころしづめ」となりますように。

平安時代、桓武天皇により創建。▷『御靈神社』京都市上京区上御霊前通烏丸東入上御霊竪町495 拝観9時〜17時 無休 拝観料無料

photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2022年5月号より。


和菓子作家 杉山早陽子

1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。

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