真似をしたくなる、サンドイッチ

February 01, 2022 ニンジンにかぼちゃ。
「オレンジ」づくしのヴィーガンサンドイッチ。真似をしたくなる、サンドイッチ Vol.13

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届けします。
今回は、本誌No99に登場した『プラン・デ』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

具材を分析した精巧なスケッチを毎回ご紹介。今回紹介するのは、「オレンジ」がテーマのサンドイッチ!
具材を分析した精巧なスケッチを毎回ご紹介。今回紹介するのは、「オレンジ」がテーマのサンドイッチ!

「色」でメニューが決まる!?

「DWICH & GLACE」(サンドイッチとアイス)。
店名ではなく、コンセプトを、間口と同じ幅の看板に大きく掲げた店に、私はちょっと斜に構えた。サンドイッチとアイス、それは、とても楽しい気分になりそうな組み合わせだ。でも、コンセプトをここまで前面に出すのはどうだろうなぁ……確かに、分かりやすい。だけど、おいしいかなぁ……そんな気持ちになった。
それでも興味がまさって、とにもかくにもまずは食べてみよう!と思ったのは、ランチタイムに店の前に出来る列と、どうもサンドイッチは2種類しか無いらしいことに惹かれたからだ。店頭に貼られたメニューの写真からは、ボリューム満点な様子が見て取れた。

この店のサンドイッチは、色で名付けられ、その色に即した構成になっている。秋に登場したブラン(褐色)は、肉厚なマッシュルームのフライを主役に、菊芋のローストと賽の目に切った栗、みずみずしいアンディーブが重ねられ、それらを3つの異なるソースが繋いでいた。

フライの衣はコーンフレークで、ソースが絡んでも香ばしく、中のマッシュルームはジューシーだ。そこにほくっと焼き上げらた菊芋が加わると、口中に丸みのある風味が広がるのだが、さらには、コショウを効かせたクリーミーなマヨネーズ(ソース)がパンチを放ち、アンディーブをマリネしたシェリービネガーがその濃度を落ち着かせて、それらの味の重なり合いに思わず黙り込んで味わった。具は野菜だけのようだけれど、ソースが濃厚なことも手伝って、言われなければ野菜だけのサンドイッチとは気づかない。

ランチタイムは、こんな風に店の前に人だかりが出来る。
ランチタイムは、こんな風に店の前に人だかりが出来る。
本誌連載で紹介したサンドイッチ“ブラン”。フィレステーキに添えるのが定番の、コショウ風味のソースを再現したマヨネーズが存在感抜群で、かなりの食べ応え。
本誌連載で紹介したサンドイッチ“ブラン”。フィレステーキに添えるのが定番の、コショウ風味のソースを再現したマヨネーズが存在感抜群で、かなりの食べ応え。
パンの切り口上下に、たっぷりとマヨネーズを。卵の代わりに大豆クリームを用いて作ったもの。
パンの切り口上下に、たっぷりとマヨネーズを。卵の代わりに大豆クリームを用いて作ったもの。
 

驚きが収まらず、もう一つの味も食べたくて、翌日また買いに行った。
オレンジがテーマのサンドイッチは、厚みあるかぼちゃのフライに、大きく切られたニンジンのローストがゴロゴロと入り、こんなにたくさん!?と目を見張る数のニンジンのスライスが積み重ねられている。
具材から、前日のブランよりもきっとボリュームがあるだろうと想像して、サイドメニューのフライドポテトは頼まなかった(そう、前日、実はフライドポテトも頼んでいた。これがまたおいしかった)。
ところが、これほどのニンジンのスライスを一度に口に頬張ったことはないな、と思うニンジンのカルパッチョが予想以上の存在感で、フライも挟んであるのに、後味がとても爽やかだった。散らされたオレンジゼストと生姜が効力を発揮し、みずみずしく、至極食べやすい。

 

とにかくニンジンづくし、でヴィーガンのサンドイッチ。

オレンジ色の4重奏?それとも5重奏?とも言える断面図。
オレンジ色の4重奏?それとも5重奏?とも言える断面図。
 

色味は、なかなかにインパクトが強いと思うのだ。こんなにもオレンジが重なった食べ物は、思い浮かばない。同じ色の具材をこんな風に合わせることにも、それが食べ飽きないことにも、驚きを通り越して、感嘆のため息をついた。かぼちゃのフライはふっくらと柔らかく火が入り甘みを存分に感じる仕上がりで、対してニンジンのローストは歯応えを残す焼き加減と、異なる食感に風味の違いが楽しい。大口を開けてひと口頬張っては、咀嚼しながら、齧った断面をまじまじと幾度となく眺めた。

そんなわけで、イートインしたその日、食べ終えたあと、迷いなく取材の依頼をした。

インタビュー当日。さらに私は、驚くこととなった。
具材に野菜しか使われていないから、ベジタリアンなのだろうとは思っていたけれど、ヴィーガンだとは思いもしなかった。ソースもマヨネーズも、厚みを感じる濃度でクリーミーだったし、卵も乳製品も当然使われている印象を受けた。
ところが、実際は、卵も乳製品も不使用で、完全にヴィーガンなのだという。

ただ、表立って、ヴィーガンを謳うつもりはないのだそうだ。

自分たち自身、例えば、骨つきリブロースステーキをシェアして食べることは喜びだし、ヴィーガンになる考えはない。けれど、食に関わりながら自分たちが何をしたいか、何が出来るかを問うたら、それは季節を重んじ、環境と大地の永続性を考慮して、自分たちも大好きな美味しいものを提供すること。そう行き着き、野菜を中心に、少しの材料できちんと料理したストリートフードを実践することにした。素材は、パリから250km圏内で生産されるものだけを、作り手から直接仕入れている。

実現にあたり、一つだけ懸念があった。チーズも使わないとなると、コクが足りないんじゃないか、パサパサしている感じがするんじゃないか。
それを克服するために、作ることにしたのが3種のソース。具材によって風味に変化をつけるマヨネーズと、店内で薪で燻すスモークソース、それに野菜クリームとも言えるコンポートを段階的に塗って、全体をつなぎ合わせているのだ。ソースと同じように具材も、ロースト、生、フライ、3つの調理法で組み合わせる。
そうして、野菜のアンサンブル的サンドイッチが生まれた。

さて。看板に大きく書かれたもう一つの看板商品、アイス。
これが、寒い冬でも食べたいコックリした味わいだ。オーツミルクをベースに作ったソフトクリームで、ピーナッツバター味。ピーナッツバターが好きな方には、是非とも味わって欲しい。イチオシです。

 
各サンドイッチには必ず、野菜のカツが入る。コーンフレークの衣が香ばしさとボリューム感を生み出す。
各サンドイッチには必ず、野菜のカツが入る。コーンフレークの衣が香ばしさとボリューム感を生み出す。
ピーナッツバター好きなもので……このアイスには抗えないです。トッピングは、チョコレートキャラメルソースに、ピーナッツとフルール・ド・セル。4.50€。
ピーナッツバター好きなもので……このアイスには抗えないです。トッピングは、チョコレートキャラメルソースに、ピーナッツとフルール・ド・セル。4.50€。

『Plan D』

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22 rue des Vinaigriers 75010 ☎️なし 12:00〜15:00 19:00〜21:30 土日12:00〜21:30 無休 メニューには書いてないが、デザートまですべてヴィーガン。


文筆家 川村 明子

パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakikoYoutubeも始めました。
Latest Issue住まいのカタチと、暮らし方。2022.07.20 — 880円