小林エリカの文房具トラベラー
小林エリカの文房具トラベラー vol.12「付箋」&STATIONERY / October 12, 2021
プラカードやシュプレヒコール、偉い人たちへの訴えのみならず、それぞれがそれぞれに向けたメッセージを思い思いに書き込んだ付箋を壁に貼るというのは、なんて素晴らしいアイディアなんだろう。ガザの少女はTwitterをして、ミャンマーの虐殺はUstreamで届けられ、FacebookやYouTubeでシリアの様子が拡散されるこの世界で、香港のカラフルな付箋もまた私の心を捉えて離さない。
というわけで、今回はひそやかな私の支持も表して付箋をご紹介。
貼ってはがせるという、ごく一時的に存在するためのみに作られた、いずれ不要になるべく希望を背負ったこの儚く小さな存在は、しかし、本のページの間に挟まれ、書類に添付され、パソコンのモニタ脇で、壁面で、唯一無二の輝きを放つ。
物忘れの激しい我が身には欠かせない。
ところで、どちらかといえば常にひっそり裏方気味の文房具というものの中で、誰かの目に触れるためにあるという希有な存在。その色や形選びに思わず力がこもるのは言うまでもない。
edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.13 2015年12月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。
作家・マンガ家 小林 エリカ
シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。