あの人が大切にしている、暮らしの本。
詩人・菅原 敏さんが大切にしている、料理の本。『酒味酒菜』August 11, 2023
まるで実験のように、色を添えてみる楽しさ。
居酒屋やバーを経営し、自作の酒の肴を出していた詩人・草野心平が1977年に記した食随筆。彼はかなり冒険心溢れる料理を作っていて、詩のタイトルを決めるように、メニューを名付けているのも面白い。ペンを取るように包丁を握る人なんでしょうね。庭に咲いている花びらをむしって味を確かめてみたり、オオサンショウウオの子を捕まえて口に入れてみたり、まずは自らの舌で確かめるという、飽くなき食への探求心。初めて「花びらの味」の一節を読んだとき、目の前に鮮やかな色彩が浮かび、ふわっとページの上が香るような気がしたんです。他にも、たらこのディップに抹茶をのせてみたりと、色彩豊かな食卓の印象が強く残っていて、料理の仕上げに色を添える楽しみを教えてもらいました。
『酒味酒菜』 著 草野心平 (中公文庫)
菅原 敏 Bin Sugawara
詩人。近著に『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。菅原敏×IBEによる詩の展示『頁の海に潜る』を9月に尾道のホテル『LOG』で、10月に西麻布『GALLERYMERROW』にて開催予定。東京藝術大学ゲスト講師。
illustration : Shapre