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『哀れなるものたち』/ジュエリーデザイナー 田中佑香さんが語る、 極私的・偏愛映画論。September 25, 2026

This Month's Favorite Theme美しい舞台美術や衣装。

『哀れなるものたち』/ジュエリーデザイナー 田中佑香さんが語る、 極私的・偏愛映画論。

絵画のようで、じっと眺めたくなる。

 実家にはリボンや布、色紙のチップやタイル、海外の雑誌などがよく転がっていた。親が色に関する仕事をしていたためだが、暇つぶしにそれらを切ったり貼ったりして遊んでいるうちに、色や素材を組み合わせることに興味を持つようになり、学生時代の演劇部では、いつの間にか演じることから舞台美術へと関心が移った。

 時代が反映された衣装やセットに魅了され、まるで発光しているような特別な世界に浸りたくて、学生時代はミニシアターのレイトショーに夜な夜な通った。今思えば、こうした装飾的なものへの憧れが、今のジュエリーデザインの仕事につながっていったように思う。

 『哀れなるものたち』は赤ん坊の脳を移植された主人公・ベラが、外の世界を何も知らず、周りにコントロールされる状態から抜け出し、性と知の冒険を通して、自分自身を獲得していく物語だ。息を呑むように美しい舞台美術は、圧倒的な色彩と素材の組み合わせの連続。プロローグは閉じ込められたベラの心情を表すかのように、抑制的なモノクロで始まり、やがて冒険が進むにつれて、色鮮やかなシーンに変わっていく。

 ベラの部屋には、まだ見ぬ外の世界が刺繍された、若草色の柔らかなキルティングの壁。ジャガードの分厚いカーテン、飴色のシャンデリアに、どこまでも肖像画が並ぶ高い天井の娼館。コントラストの強い群青の海、ピンク色の薄雲に、引きずるほど長いレモンイエローのガウン。袖が広がっている白いオーガンジーのウェディングドレスに、ボルドーのカラーとくすんだ緑のユーカリの小さな花束。どのシーンを切り取っても、まるで絵画のよう。何度も止めてじっと眺めたくなるくらい、隅々まで作り込まれている。

 フリルとドレープたっぷりのベラの衣装の変遷も面白い。始めの方はまるで赤ん坊状態の彼女を表すかのように、上半身だけボリューミー。下半身は下着姿やショートパンツでバランスが悪く、足元もおぼつかない。彼女が内面的に成長していく中で、下半身もどっしりとしたバランスの美しいドレス姿になり、やがて、最後はシンプルな服装に変化していく。ちょうど私は仕事を休んでいた時期にこの映画を観たのですが、観終わった後は、自分の周りの世界までブワッとカラフルに塗り替えられたかのような、エンパワーメントされる作品でした。

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しばらくは装飾たっぷりのカラフルな洋服とインテリアに囲まれたくなること、間違いなし。かく言う私も、劇中でベラがつけていたチョーカーのようなネックレスがあまりにかわいくて、復帰後に短いチェーンネックレスをデザインした。オペや解剖など少しグロテスクな表現も含むので苦手な人は注意。原作もとてもおすすめ。
Title
『哀れなるものたち』
Director
ヨルゴス・ランティモス
Screenwriter
トニー・マクナマラ
Year
2023年
Running Time
141分

illustration : Yu Nagaba movie select & text:Yuka Tanaka edit:Seika Yajima


ジュエリーデザイナー 田中佑香

〈SIXTH NIGHT〉デザイナー。ブランド名は夏目漱石の短編集『夢十夜』の「第六夜」にちなんで命名。自然の鉱物を用いて日本の伝統技法で宝石の美しさを引き出し、長く寄り添うジュエリーを制作。

→ instagram.com/t6n_yukatanaka

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