〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景
正伝寺サツキ餅〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景 vol.14January 27, 2023
京都で和菓子を制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子と文とで表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。
正伝寺
サツキ餅
京都の北、西賀茂という住宅街の山際に位置する正伝寺。その庭は、数ある中でもシンプルで愛らしい景色を持つ。比叡山を借景にし、丸く刈り込まれたサツキが白砂に七、五、三、と並ぶ。丸く刈り込まれたサツキは一般的にもよく見られるが、こうして白砂の上に作り手の意志を映して整然とある姿が普通ではないオーラを纏わせるのだ。
江戸初期に作庭されたのち、昭和時代に重森三玲によって整備されたと聞いて、納得してしまう。重森三玲の造る庭はいつも、訪れた人に確かに訴えかけるオーラを持つ。
和菓子を作る私にとってはこの丸いサツキがおいしそうに見えてならない。道明寺(蒸したもち米を砕いたもの)で小豆の漉し餡を包み、回りに木の葉と浮島をふわふわなパウダーにしてまぶす。そうすると小さくて丸く、愛らしさに満ちたサツキが現れる。重力に逆らわない餅の特性が正伝寺に配されたサツキの形とリンクする。
食べることは、ものを愛でる一つの方法だと思う。正伝寺の庭を見ながらこの餅を食べて愛でることを想像するとにんまりしてしまう。
庭園はデヴィッド・ボウイも愛したという。▷『正伝寺』京都市北区西賀茂北鎮守庵町 ☎075-491-3259 拝観9時〜17時 無休 拝観料400円
photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2023年3月号より。
和菓子作家 杉山早陽子
1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。