花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
陰陽を伝える「迎え鶴」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.66January 19, 2023
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
陰陽を伝える「迎え鶴」。
古来、日本人は祈りを様々な形に写し、表現してきた。新年を迎える喜びに溢れ、清々しい空気を漂わせる正月飾りもそのひとつ。竹や松葉といった植物に物語をまとわせ、粛々と祝う気持ちを込めているのが『みたて』の正月飾りだ。そのひとつ「迎え鶴」は、たわわに実る稲穂を束ね和紙で首と尾を表現。胡粉で仕立てた表の白と、内側の黒のコントラストは鶴の羽色を写すと同時に、陰陽の意味を込めている。
陰陽は古代中国から伝わり、日本で独自の発展を遂げた思想。世の万物はすべて陰と陽という相反する性質を持ち、共にあることで成り立つというもの。妙心寺の塔頭『退蔵院』では、禅にも通じるその思想を体現した「陰陽の庭」を見ることができる。昭和の造園家・中根金作が昭和38年に着工し、3年の月日を費やし造り上げた「余香苑」の一角。陰の庭は黒砂で砂紋も力強く8つの石を配し、陽の庭は7つの石と白砂で柔らかな砂紋を描く。人の心や物事の二面性を伝える枯山水庭園だ。実は向かい合う2つの庭の間には樹齢60年近い紅しだれ桜が植えられており、咲き誇る春は花に目を奪われてしまう。蕾がほころぶ前の冬こそ、じっくりと庭を眺め自分の心と対峙できるときかもしれない。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2021年2月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。