写真家 野川 かさね
May 03, 2018 山の相棒 野川かさね
山の相棒
写真を撮りに山歩きをはじめて早10数年。最初の数年は季節ごとにいろいろな山へと出かけました。新鮮な景色や長く歩く山旅に刺激を受けながら山の魅力にとりつかれていった日々でした。その山歩きに始まりから今も欠かかすことのできない「山の相棒」は何かと聞かれたら、カメラの次に「測量野帳」と答えます。山歩きの最中にメモやスケッチをしたり、山小屋のスタンプを押したりと、山歩きの記録帳としていつも肩身はなさず持ち歩いています。実は一度他のノートに浮気(?)したこともあったのですが、すぐに元に戻りました。大きさといい、耐久性といい、主張しすぎないデザインもすべて、ぴったりとそしてそっと自分の山歩きに寄り添ってくれるのです。

January 29, 2018 冬、山小屋 野川かさね
冬、山小屋
山は雪に覆われ、長い冬の季節になりました。「山」といえば、青い空に広がる緑の稜線のイメージを持たれる方がほとんどだと思うのですが、そういう景色が見られるのは7、8月、9月中旬くらいまでのごく短い期間です。私のイメージでは一年の半分は雪とともに山はあります。この季節になると、標高の高い山ではほとんどの山小屋は営業を終了するのですが、私がよく通う北八ヶ岳のエリアは通年営業をする山小屋が多く、冬山歩きの強い味方になってくれます。真っ白の雪山を歩き、その森の先に山小屋を見つけた時。思わず「ただいま」と言ってしまいそうになるほど自分の緊張が緩んでいくのを感じます。蒔ストーブにあたり、お茶をすする瞬間がなんとも幸せです。

September 28, 2017 一番好きな季節 野川かさね
一番好きな季節
先週、北アルプスに足を運ぶともうすっかり季節は秋。草木は緑から黄色や赤へと変化をはじめ、空の色や雲も、そして空気さえもそこにもう夏の名残はありませんでした。さて、いよいよここから、高山は雪の季節に向かって、日々、加速度的に進んでいきます。過ぎていった季節に微塵も未練を残さずにいる山のなかで、立ち止まって写真を撮る自分の姿は心細くも感じます。でも、秋という季節は一年で一番好きな季節。山においてけぼりにされないように気をつけながら、じっくりと味わいたいです。

July 17, 2017 街で山を思う 野川かさね
街で山を思う
そろそろ夏山のシーズン。そわそわとする毎日を過ごしています。この夏にどの山へ撮影に行こうか、スケジュールを考えるだけでなんだかもう夏が終わったような気がしてしまいます。高山での夏はあっという間に過ぎていきます。年にもよりますが、9月上旬にはうっすらと秋の気配、その一月後には早いところでは初雪が降ります。数年前から山の花の撮影しじめてからはなおさら、その撮影のチャンスを逃したくないとカレンダーとにらめっこ。体は街にあるのに、心と頭は山にあるような……。自分のなかに二つの場所があること、季節を点ではなくて、線で感じること。山を想い、街にいる季節に感じることのできる豊かな感情です。

May 02, 2017 街と山をつなぐ。 野川かさね
街と山をつなぐ。
街で山を想うこと。山でなくても、目の前に存在する景色以外のものを、想うこと。それは決して憧れのようなものを遠く思うこととは違い、自分のなかに眠っている、すぐ横に寄り添っているものの気配を気づくこと。
代々木公園にほど近い住宅街にアウトドアブランド〈and wander〉がディレクションする『MT.』というお店がオープンしました。たくさんのウエアやギアが並ぶなか、一見山には関係ないようなアイテムちらほらと顔を覗かせています。「どこまでが街で、どこからが山なのか?」そんな境界線を軽やかに行き来するその空間に入った瞬間、自分のなかの山の気配を静かに呼びもどされたのでした。

http://mt.andwander.com/
写真家 野川 かさね

山や自然をテーマに作品を発表。雑誌や書籍などでの撮影も手がける。kvinaなどのユニットとしても活動中。今年は山小屋と高原をテーマにした書籍を2冊を刊行予定。
インスタグラム(@kasanenogawa)も。