花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
枝と角で表現する「空也上人」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.65January 12, 2023
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
枝と角で表現する「空也上人」。
古より幾度となく疫病に見舞われ、悪疫退散を祈念してきた京都には、今に伝わる行事が数多くある。一年の最後を締めくくるのは、かくれ念仏として知られる六波羅蜜寺の「空也踊躍(くうやゆやく)念仏厳修」だ。創建当初は西光寺と称された寺の開祖は、念仏を庶民に広く伝えた空也上人。悪疫退散のため自ら十一面観音像を彫り、車に載せて市中を回り、念仏を唱えながら踊る踊念仏を伝えたという。ところが鎌倉時代になると踊念仏は弾圧を受け、密かに日が暮れてから執り行われるように。これが今も受け継がれる、かくれ念仏なのだ。今年も
12月13日から31日まで、悪疫退散の祈りが捧げられるに違いない。
その空也上人の姿は六波羅蜜寺の立像に見ることができる。運慶の四男・康勝の作とされる空也像は、念仏を唱える様子を口から吐き出した6体の阿弥陀仏で表現。一体ずつがそれぞれ、南・無・阿・弥・陀・仏を意味している。手には鹿の角をつけた杖。鞍馬口に閑居した際に可愛がったものの、猟師に殺された鹿を偲び、以来、その身から離すことはなかったという角を持つ。
6本の枝がついた馬酔木(あせび)を阿弥陀仏に見立て、鹿の角を添えた『みたて』の師走飾り。さりげなく風物を伝えてくれる仕掛けとなっている。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2021年1月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。