花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
花売る「白川女の籠」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.36March 10, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
花売る「白川女の籠」。
社伝によれば創建は日本が建国する以前の神代と伝わる『地主神社(じしゅじんじゃ)』。毎年5月5日には雅楽や白川女、稚児などが行列となって進む姿が華々しい地主祭りが行われている。紺の着物に絣の前垂れ、白い襦袢、頭の上の蓑(み)に切り花と自家製の番茶を載せ、「花いりまへんか〜」と白川の里から町へと売り歩いた白川女。その白川女が行列に加わる由来は平安時代まで遡る。『地主神社』へと行幸した嵯峨天皇が、帰りにふと目にしたのが境内の地主桜。一重と八重の花が同じ一本の木に咲く不思議な様子に目を奪われたのか二度、三度と車を引き返して眺め、いつしか御車返しの桜と呼ばれるようになったという。以来、春になると桜が白川女によって朝廷へと献上されたという故事により、列に加わり華やぎを添えている。
桜や色とりどりの草花に彩られる白川女の蓑を、野山に咲く草花と古道具の籠で畳の上に再現したのが『みたて』初夏のしつらえ。梅や桜など木々に花が咲く春を経て、5月はミヤコワスレやホタルブクロ、ナデシコ、イチリンソウなど可憐な草花が一斉に咲き始める季節。花屋『みたて』の店頭が賑やかになるのと同じように、白川女も忙しく、籠は華やかになったに違いないと思いを馳せるひととき。さりげなさに心惹かれる演出だ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2018年6月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。