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あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。井上保美さん前編What Are Mature Persons Made of ?October 17, 2022

2022年9月20日発売の『&Premium』の特集は「大人になったら選びたいもの、こと。」服選びやもの選びを通して、理想の素敵な大人について考えました。井上保美さんの「あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。」前編をご紹介します。

暮らしのなかで愛用する道具、大切にしている装い、心を潤す本やアート。
自分らしい生き方を貫き、楽しむ4人の大人たちが選びとってきた品々には、経験を重ね、試行錯誤を繰り返して培われたセンスと哲学が宿っていました。

井上保美 45R デザイナー あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。
ベネチアングラスの小さな花器に花を生ける。花は井上さんの生活に必須のもの。

おばあちゃんになっても愛しいもの。Mature Persons 01

45年間、ファッションデザイナーとして活躍してきた井上保美さん。4年前に引っ越した家は、彼女が大切に思うもので満ちている。その基準となるのは、"いくつになっても持っていたい"こと。

井上保美 45R デザイナー あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。
マンションを購入するきっかけとなった光に溢れたキッチン。ここでお茶を飲んだり、仕事をすることもある。
リやロンドンの蚤の市などで集めたグラス類。右手にある小さなリキュールグラスは、初めてヨーロッパに行ったときに購入した。若い頃はこのグラスでワインを飲んでいた。
リやロンドンの蚤の市などで集めたグラス類。右手にある小さなリキュールグラスは、初めてヨーロッパに行ったときに購入した。若い頃はこのグラスでワインを飲んでいた。
アンティークから作家ものまで、色とりどりの花柄の食器たち。食器は好きでたくさん持っている。
アンティークから作家ものまで、色とりどりの花柄の食器たち。食器は好きでたくさん持っている。
パールのアクセサリー。古いものもあり、粒の大きさや色合いも様々に揃う。
パールのアクセサリー。古いものもあり、粒の大きさや色合いも様々に揃う。
生活に欠かせないメガネたち。フレームはべっ甲やバッファローホーン、昔のプラスチックなど、風合いがある素材のものが多い。
生活に欠かせないメガネたち。フレームはべっ甲やバッファローホーン、昔のプラスチックなど、風合いがある素材のものが多い。

もの選びで大切なのは、 "好き"に対して妥協しないこと。

 2022年に創業45周年を迎えたブランド〈45R〉。東京・代官山の小さな部屋からスタートし、自然素材による、まとって気持ちのいい服を作り続けてきた。その立ち上げから現在までデザイナーを務める、同社副社長の井上保美さんの家には、大人だからこそ心に響く、目利きならではの逸品が揃っている。
 自分では「大人になった実感がない」という井上さんだが、その審美眼は若い頃からぶれることなく、数十年前に購入して、今でも大事にしているというものもたくさん。その一つが、手描きで模様が施された小さなリキュールグラスだ。
「40年くらい前に初めてヨーロッパに行ったときに蚤の市で購入しました。一目見てかわいい、と思い、それから少しずつ集めました。若くてお金がないので高級なワインは飲めない。けれど、せめて素敵なグラスで飲みたいと、安いワインをこれに入れて気持ちを盛り上げていました。まだ専用のグラスでワインを飲むとよりおいしくなる、というのも知らなかった頃です。これは今見ても『ああ、かわいいなあ』と思うもの。アンティークや手仕事のものに惹かれるのは、若いときから変わっていません」
 なので、食器やアクセサリー、メガネといった装飾品も古いものが多い。
「それほど料理をするわけではないのですが、食器が大好きなんです。様々なタイプを持っていますが、特に花柄は多いかもしれません。アンティークから作家ものまで、いろいろと揃っています。花柄は〈45R〉でもよく使うモチーフ。こういった古い食器からインスピレーションを得ることもあります」

 また、アクセサリーも井上さんの装いに欠かせないアイテム。光りもの、ウッド系、ターコイズなどテイスト別に引き出しに収められているが、特にパールには思い入れが強いという。45周年記念として、井上さんの好きなものを詰め込んだ期間限定コレクション“パトアシュ”で、〈ミキモト〉が制作協力をしたパールアクセサリーも作った。
「私がデザインする服は、案外とシンプルなんです。アクセサリーを着けることで、エレガントになり、コーディネートが完成します。とても重要なので、いいと思ったものは買うようにしています」
 もう一つ、アクセサリー同様に必ず身に着けるのがメガネ。大人になったからこそ使えるようになったリーディンググラスだ。
「もともと目が良かったので、メガネに憧れていて。老眼になってどうしても必要になったときは、ものすごく嬉しかったですね。フレームのほとんどはヨーロッパの蚤の市で買ったもの。丸い形が多いです。レンズは日本で作って入れています。洋服に合わせるというよりも、近くを見るのか、遠くを見るのか作業内容によって取り換えています」

左のインドの手織りストール2枚は約15年前に購入。ピンクの布はインドネシアの絣。右端は〈45R〉で作った、韓国のポジャギをイメージしたストール。色の組み合わせが秀逸。
左のインドの手織りストール2枚は約15年前に購入。ピンクの布はインドネシアの絣。右端は〈45R〉で作った、韓国のポジャギをイメージしたストール。色の組み合わせが秀逸。
主に光りものを入れたアクセサリー用引き出し。時計のバックル下にあるネックレスが、4枚と5枚の花弁の中心に〈ミキモト〉のパールをあしらった”パトアシュ”のもの。
主に光りものを入れたアクセサリー用引き出し。時計のバックル下にあるネックレスが、4枚と5枚の花弁の中心に〈ミキモト〉のパールをあしらった”パトアシュ”のもの。

 さらに、インドの手織りストールも井上さんの好みがギュッと詰まった一品。
「パリのギャラリーで購入。高かったけれど一目惚れでしたね。花柄の感じも色の組み合わせもすごくかわいくて、私の好きなテイストが一枚に凝縮されています。しかも、体を包み込める大きさなので、羽織るだけで華やかになるんです。これはおばあちゃんになっても使えると思って買いました」
 この“おばあちゃんになっても持っていたいかどうか”というのは、井上さんが、ものを選ぶ際の大きな基準になっている。
「何かを手に入れる際、おばあちゃんになっても使いたいか、好きでいられるかは必ず考えます。捨てるのがイヤなので、買うときは高くても妥協せず、いいものを買うようにしています。その嗜好も、お金がなかった若いときから変わらないですね」
 高くても満足できるものを、という姿勢は靴選びにも表れている。
「レースアップシューズやブーツは、イタリアの靴メーカー〈ジンターラ〉のオーダーメイドです。ニューヨークのうちの店の近くに店舗があって、レディスのオーダーもできると聞いて、コードバンのレースアップを注文しました。22年前のことで、メンズライクな女性靴があまりなかった時代。当時1足30万円すると言われてびっくりしましたが、どうしても欲しくて。気に入ってそれからも数足作り、初代も現役なので、高くても作って良かったです」

窓にはカーテンやブラインドの代わりに細い堅子を組み入れた引き戸を付けた。和のテイストがありつつ、モダンなデザインだ。寝室の右奥がクローゼットになっている。井上保美 45R デザイナー あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。
窓にはカーテンやブラインドの代わりに細い堅子を組み入れた引き戸を付けた。和のテイストがありつつ、モダンなデザインだ。寝室の右奥がクローゼットになっている。
クローゼットの一角には、井上さんがデザインした日常に身に着けるワンピースなどが掛けられている。収納ユニットはイタリアの家具ブランド〈モルテーニ〉のもの。
クローゼットの一角には、井上さんがデザインした日常に身に着けるワンピースなどが掛けられている。収納ユニットはイタリアの家具ブランド〈モルテーニ〉のもの。
20年以上前に見つけて以来、愛用している〈ゲンダーム〉の香水。甘くない爽やかでユニセックスな香りが気に入って使い続けている、井上さんの一部になっているもの。
20年以上前に見つけて以来、愛用している〈ゲンダーム〉の香水。甘くない爽やかでユニセックスな香りが気に入って使い続けている、井上さんの一部になっているもの。
ペルシャ時代の更紗もある古裂。国内外の古い布を集めていて、デザインの資料にすることもあるが、これらを使って自分で茶事に使う帛紗や数寄屋袋を作っている。
ペルシャ時代の更紗もある古裂。国内外の古い布を集めていて、デザインの資料にすることもあるが、これらを使って自分で茶事に使う帛紗や数寄屋袋を作っている。
イタリアのシューズメーカー〈ジンターラ〉でオーダーメイドしたレースアップシューズなど。ソールを替えながら大切に履いている。最初にオーダーしたのは22年前。
イタリアのシューズメーカー〈ジンターラ〉でオーダーメイドしたレースアップシューズなど。ソールを替えながら大切に履いている。最初にオーダーしたのは22年前。
PROFILE

井上保美 〈45R〉デザイナー

45年間、ファッションデザイナーとして活躍してきた井上保美さん。4年前に引っ越した家は、彼女が大切に思うもので満ちている。その基準となるのは、"いくつになっても持っていたい"こと。

古賀貴子
あの人のスタイルをつくっている、 大人のもの選び。井上保美さん後編はこちら

photo : Isao Hashinoki (nomadica) edit & text : Wakako Miyake

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