MUSIC 心地よい音楽を。
詩人 菅原敏さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.3January 19, 2024
January.19 – January.25, 2024
Saturday Morning

スプーン一本
落とすようなはずみで
一月の窓から
ふたりの過去が落っこちた
しばらく動けずに
うずくまっていたものの
ゆっくりと立ち上がって
道路に散らばった言葉を
いくつか掻き集めて
小銭と一緒にポケットに
突っ込んだあと
片足を引きずりながら
くるまを拾って
どこかへ行ってしまった
ふたりは窓の下に散らばる
昔のかけらをしばし眺め
黙ってお茶を淹れて
それぞれの部屋に戻った
アルバム『Cheek to Cheek』収録。
落とすようなはずみで
一月の窓から
ふたりの過去が落っこちた
しばらく動けずに
うずくまっていたものの
ゆっくりと立ち上がって
道路に散らばった言葉を
いくつか掻き集めて
小銭と一緒にポケットに
突っ込んだあと
片足を引きずりながら
くるまを拾って
どこかへ行ってしまった
ふたりは窓の下に散らばる
昔のかけらをしばし眺め
黙ってお茶を淹れて
それぞれの部屋に戻った
アルバム『Cheek to Cheek』収録。
Sunday Night

傷を癒すとき僕らは
巣穴の獣みたいにまるくなって
ひとりで夜を迎える
いまはただ目を閉じて眠ること
いくつかの思い出をひきだしから取り出して
ひとりの夜を眠ること
春と夏をいちどきに失ったとしても
傷はそのうちに癒えるだろう
ひとりの夜はじぶんの影に横たわり
ただ眠ればそれでいい
僕らは目を閉じ
人の消えた街に 風だけが走り
すべて信号は青く 空を魚たちが泳ぐ
夜はやさしと 眠りのなか
小さく開けた窓の向こうに誘われる
アルバム『摘んだ花束 小束になして』収録。
巣穴の獣みたいにまるくなって
ひとりで夜を迎える
いまはただ目を閉じて眠ること
いくつかの思い出をひきだしから取り出して
ひとりの夜を眠ること
春と夏をいちどきに失ったとしても
傷はそのうちに癒えるだろう
ひとりの夜はじぶんの影に横たわり
ただ眠ればそれでいい
僕らは目を閉じ
人の消えた街に 風だけが走り
すべて信号は青く 空を魚たちが泳ぐ
夜はやさしと 眠りのなか
小さく開けた窓の向こうに誘われる
アルバム『摘んだ花束 小束になして』収録。
詩人 菅原 敏

詩人。2011年、アメリカの出版社〈PRE/POST〉より詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリース。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供、欧米やロシアでの海外公演など幅広く詩を表現。 近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)ほか。 東京藝術大学 非常勤。
Photo:Kousuke Matsuki