Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/みどり vol.4March 24, 2023

March.24 – March.30, 2023

Saturday Morning

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Title.
緑の町に舞い降りて
Artist.
松任谷由実
岩手県盛岡市。宮沢賢治は「モーリオ市」と呼び、ユーミンは「ロシア語みたいな響き」と歌うモリオカ。曲名どおり、ほんとうに緑の町なのです。四季を通していつ訪れても、あちらこちらに緑の気配を感じます。でもこの歌が誘うように、5月の、それも朝のすがすがしい空気があるうちに、町を流れる中津川沿いの道を歩いてみてほしいです。できれば、川を見下ろす道ではなく、川の音を間近で感じられる遊歩道を(この町は、そんな気持ちのよい道をしっかり残してくれています)。
歩き疲れたら、川から上がって近くの喫茶店へ。旅人も暮らす人も、美味しい珈琲とともに憩うことのできるお店がいくつもあります。
なんだか旅行案内みたいになってしまいました。ぼくは盛岡が好きなのです。こうやって書きながら、盛岡の町を空想散歩できるくらいに。そして、ユーミンのこの歌は、ぼくが抱いている盛岡のイメージと重なりあって、とても大切な歌になっています。
印象的なイントロに始まり、ペダルスティールギターが歌を引き立てるこの歌は、ポップスとしてパーフェクトな出来ではないかと思うのですが、歌が終わった後の演奏が長いのも良いです。旅から帰ってきて、盛岡の町のことを思い出しているような、そんなアレンジだなと感じています。いいところでフェードアウトしてしまうのですが、もっと聴いていたい!(青木隼人)
アルバム『悲しいほどお天気』収録。

Sunday Night

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Title.
仄灯
Artist.
西森千明
日曜日の夕方。楽しかった一日が終わり、すこしの寂しさがあたりを包む頃。西森千明さんの「仄灯(ほのあかり)」は、そんな夕暮の時間に聴きたいです。
CDには「仄灯」1曲しか入っていません。「この歌を伝えたい」という、とても強い意思を感じます。それはアートワークにも表れていて、栗原葉子さんの夕暮れを感じる2枚の写真と、その色合いに合わせた2枚のトレーシングペーパーによってCDが包まれているのです。最近は音楽がなにかに包まれていることが少なくなっていますが、手にとることで伝わるものは確かにあり、このCDの装幀はその大切さを思い出させてくれます。
「仄灯」は11分あります。それは例えば、日曜日の夕方、ああ今日は夕暮れがきれいだなと窓をあけて、1日にあったことを思い出しながら、光が移り変わっていくのを眺める時間と同じくらいだと思うのです。3分間の歌だと、ちょっと短い。アルバム1枚だと、ちょっと長い。
演奏はすべて西森さんによるもの。遠くまでよく見える、広い風景を感じる歌声とピアノがメインの楽曲ですが、ウーリッツァーというエレクトリック・ピアノが添えられていて、その温かい音色がなんとも素晴らしいです。
もしかしたらいまは入手が難しいCDかもしれませんが、どこかで見かけたら、手に取ってみてください。そして、日曜日の夕暮に聴いてみてほしいです。(青木隼人)
シングル『仄灯』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ミュージシャン みどり

森ゆに、青木隼人、田辺玄のトリオ。2017年に緩やかに活動をスタート。ふだんはピアノ弾き語りで歌う森ゆには、みどりではピアノを弾かずに歌う。青木隼人と田辺玄は、ギターで歌を支え、ときどき前に出て合奏をする。演奏の活動期間は啓蟄から立冬まで。2019年3月ファーストアルバム『みどり』発表、2022年4月セカンドアルバム『みどり2』発表。

midoriwataruoto.info

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