ミュージシャン 勝沼 恭子 + 三宅 純


January 31, 2020 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/勝沼恭子+三宅純 vol.5

January.21 – February.06, 2020

Saturday Morning

Title.
Invention No. 13 In A Minor, BWV 784
Artist.
Glenn Gould
グレン・グールドは僕にとってジャズ・ピアニストです。もちろんカザルスだって、僕にとってはジャズ・マンのひとりです。そんなことを言うと殺されそうな気配も感じますが、だとしたら、クラシックだとかジャズだとかはどうでもいいので、皆さんのご意見に従います。でも、こんな曲がお隣のお屋敷に住む、綺麗なお姉さんの部屋から流れてきたりしたら、その土曜日の朝はいつもと違う輪郭と立体感を持つだろうなぁ。グレン・グールドが全身に纏った、きらめくような天啓は、血沸き肉踊らせるものです。元々はバッハ・インヴェンションに入っていたテイクだったと思うけど、この映画のことを懐かしく思い出したのでサントラ盤から。(三宅純)
アルバム『Thirty Two Short Films About Glenn Gould』収録。

Sunday Night

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Title.
Johnny Johnson Medley
Artist.
Van Dyke Parks
「日曜の夜」のつもりでメールしたのに、「月曜の朝っぱらからなんなの?」みたいなことがある。時差が消えて無くならない限り「僕の夜は君の朝」なのだ。そんな夜には(どんな夜なんだ?)、例えばヴァン・ダイク・パークスのカラフルなアレンジによる、クルト・ヴァイル・メドレーはいかがでしょう? ヴァン・ダイクの素晴らしいオーケストレーションは、クルト・ヴァイルの、彼にしか作れない、美しくも屈折したメロディを、時空を超えて僕らに伝えてくれる。国境を越えること自体にドラマがあった時代、人々が皆正装していた時代、そして正装が軍服に蹂躙されてしまった時代の響きが、ここにはある。クルト・ヴァイルに捧げたハル・ウィルナーのコンセプチュアル・アルバムから。(三宅純)
アルバム『Lost In The Stars: The Music Of The Kurt Weil』収録。




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音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 小西康陽、青葉市子、七尾旅人、長田佳子、テイ・トウワ、中嶋朋子……、 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付きです。 詳しくはこちら


January 24, 2020 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/勝沼恭子+三宅純 vol.4

January.24 – January.30, 2020

Saturday Morning

Title.
They Can’t Take That Away From Me
Artist.
Ella Fitzgerald and Louis Armstrong
21歳、降りた事のない駅の坂の上にある部屋で1人暮らしを始めた。「オペラ」という名前のチョコレートケーキのような、かっちり長方形のレンガの建物の中に、同じ向き、同じ形に作られた小さな部屋が並ぶ、こぢんまりした女性専用のマンションだった。家でも社会でも檻の中の実験動物になったような気持ちがしていた時代に、このElla & Louisのアルバムを本当によく聞いていた。「唄わずにはいられない!」彼女の全身から溢れ出す歌声は瑞々しく、のびやかで、機敏で、ときめきが詰まっていた。(勝沼恭子)
アルバム『Ella & Louis』収録。

Sunday Night

Title.
Van Den Budenmayer : Concerto En Mi Mineur
Artist.
Zbigniew Preisner
映画「ふたりのベロニカ」は、フランスとポーランドに同時に生まれた同じ名前、容姿、才能をもつふたりのベロニカについて描いた、クシシュトフ・キエシロフスキ監督作品。映画を観ていると、誰かにじっと監視されているような感じがあって特別好きな映画とは言い難いんだけれど、雨の中で唄うイレーヌ・ジャコブの初々しさと、“後ろの正面”にあるものが聞こえてきそうになるこの曲は、何年経っても心から離れないでいる。(勝沼恭子)
アルバム『La Double Vie De Véronique』収録。




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January 17, 2020 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/勝沼恭子+三宅純 vol.3

January.17 – January.23, 2020

Saturday Morning

Title.
Small Car
Artist.
Marvin Pontiac
ある土曜日の朝、起き抜けに冷蔵庫を開ける。鍋にたっぷりの湯を沸かす。蒸籠を裏返し、生の中華麺を大きなドーナツ型に整えて鍋に乗せる。そのまま強火で10分。タイマーが鳴ったら麺を下のお湯へ投入し10秒間茹でる。もう火は通っているから粉を落とすだけ。
水を切り、流水で洗い、ペーパータオルで拭く。お皿にその麺を乗せ、少量のサラダ油と醤油を2、3滴垂らして軽く混ぜる。鍋に油を熱して麺を入れ、外側が色づくまで両面焼く。この手間のかかるあんかけ焼そばの下準備をしながら、この曲を聴くのが私は大好き!蒸し器の湯気とか、だんだん香ばしく変化していく麺の呟きが聞こえてきそうな気がするから。(勝沼恭子)
アルバム『The Legendary Marvin Pontiac – Greatest Hits』収録。

Sunday Night

Title.
Vocalise
Artist.
Clara Rockmore
この曲を知ったのはNYで師事したヴォーカルレッスンの先生を介してだった。その先生は60代のとても優しい小柄な紳士、通されたレッスン室の木目のベビーグランドピアノが印象的だった。「まずは君の声を聞かせてほしいな……」 彼はピアノに手を伸ばし、短いフレーズを歌ってみるようとにと告げた。しばしあって、「君は自分の声についてどう思っているの?」と聞かれたので「実は自分の声が好きになれないでいます」と答えると、彼は立ち上がり1枚のディスクを選びプレイボタンを押した。「これは人の声ですか?」と私。「テルミンという電子楽器の音だよ。この曲の題名を書き留めて、日本に帰ってからもよく聞いてみるんだ。君の声は繊細かもしれないけど、僕はとても好きだよ」。彼はそう言ってレッスンを終えた。テルミン博士の恋人でもあったクララさんのテルミンはよく歌う。後日このふたりのことを題材にしたドキュメンタリーを見たら、音楽は三宅純さんと交流の深いハル・ウィルナーが監修していた。(勝沼恭子)
アルバム『The Art Of The Theremin』に収録。




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January 10, 2020 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/勝沼恭子+三宅純 vol.2

January.10 – January.16, 2020

Saturday Morning

Title.
Beirut
Artist.
Yasmine Hamdan
三宅純さんが新曲を歌ってくれる人を探している時に、ウィーンのラジオ局の人がレバノン出身のヤスミン・ハムダンさんを紹介してくれた。ジム・ジャームッシュの映画『Only Lovers Left Alive』の中で歌う彼女は妖艶で挑発的だったので、緊張しながらご挨拶をさせて頂いたのだが、拍子抜けするほどシンプルで飾らない人だった。彼女の何気ない世間話の中には、リアルな戦争体験の話が出てくる。内戦が激しくなってくると、外に向かって大音量でベートーヴェンの「第九」を流すお父さんのお話は印象的。故郷の悲惨な現実を受け入れ、戦争を知らない人達が住む国に暮らしながら夢を実現させているレバノンの歌姫。彼女の歌に自分の身体を滑り込ませてみると、普段の自分とは違う細胞がちりちりと動き出す気がする。(勝沼恭子)
アルバム『Ya Nass』収録。

Sunday Night

Title.
Mister Sun
Artist.
Brigitte Bardot
映画『ティコ・ムーン』の主題歌にもなっているこの曲。ブリジット・バルドーの熟れすぎたフルーツのような歌声は、夢で嗅いだ麻酔薬のよう。そんな声で「お日様私を照らして」なんて歌われると、闇がかえって深くなって、自分が空っぽになっていく。この気だるい時間の過ぎ方が好きです。(勝沼恭子)
アルバム『Un Jour Comme Un Autre』収録。




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January 03, 2020 土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/勝沼恭子+三宅純 vol.1

January.03 – January.09, 2020

Saturday Morning

Title.
Abu Ata
Artist.
Morteza Mahjoubi
ゆっくりと時間をかけて覚醒したい土曜日の朝に、こんな不思議な響きはいかがでしょう? 弾き手の耳に聴こえている音階が、平均律ではなくクォータートーン(4分音)だとしたら、そんな風に調律してしまえばいいじゃないか、という潔い発想の即興演奏。もしキーが変わったらせっかくの調律もやり直しなのかなぁ、と要らぬ心配をしてるうちに、モスクの中でキリコの絵に出会ったような、影の長い迷路に引き込まれていく。「やはり世の中は不条理からできている」と確信してから起きあがる朝があっても良いのだ。(三宅純)
アルバム『Persian Piano 2』収録。

Sunday Night

Title.
Persian Love
Artist.
Holger Czukay
ペルシャのピアノで目覚めた週末は、ペルシャへの愛で締めくくる手もあるかもしれません。短波放送からサンプリングしたペルシャ(イランの古名ですね)の歌手のフレーズを、シンプルなビートに散りばめたコラージュ的な作品だが、様々な時代や国籍や宗教が交錯し、相入れぬ音色、音楽様式が絶妙に絡み合って、不思議な浮遊感を生んでいる。1979年発表……たしかにその時代を象徴する電子楽器の音が聞こえてくる。普通ならそれが自分のことのように気恥ずかしくなったりするのだけれど、この奇妙な配合の中では違和感がない。うーん、でもやっぱり……僕ならその音だけこっそり入れ替えちゃうかもなぁ。(三宅純)
アルバム『Movies』収録。




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音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 小西康陽、青葉市子、七尾旅人、長田佳子、テイ・トウワ、中嶋朋子……、 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付きです。 詳しくはこちら


ミュージシャン 勝沼 恭子 + 三宅 純

勝沼恭子
10 歳の時、在籍合唱団の選抜により、NHK みんなのうたにてレコードデビュー。15 歳で海外公演(ギリシャ)を経験する。昭和音楽大学短期大学部ピアノ科卒業と同時に CM 音楽制作会社に入社。音楽制作を学びつつ、ヴォーカリスト、ナレーターとして三宅純、菅野よう子、中川俊郎、近田春夫、鈴木慶一らの作品に参加。2019年に三宅純のプロデュースにより、ファーストアルバム『COLOMENA』をリリース。
http://www.kyokokatsunuma.com/

三宅純
日野皓正に見出され、バークリー音楽大学に学び、ジャズ・トランぺッターとして活動開始。作曲家としてピナ・バウシュ、ヴィム・ヴェンダース、フィリップ・ドゥクフレ、ロバート・ウィルソン、ジャン=ポール・グード、大友克洋らの作品に楽曲提供、異種交配を多用した個性的なサウンドが国際的賞賛を受ける。05年秋よりパリにも拠点を設け、アルバム『Stolen from strangers』『Lost Memory Theatre Act-1 』『Lost Memory Theatre Act-2』はヨーロッパの音楽誌で「音楽批評家大賞」「年間ベストアルバム賞」などを連続受賞。ヴィム・ヴェンダース監督作品『Pina』で 11 年ヨーロッパ映画賞のベスト・ドキュメンタリー賞受賞、12 年米・英のアカデミー賞にノミネート。CM、映画、アニメ、ドキュメンタリー、コンテンポラリーダンス等多くの作品に楽曲を提供。
https://www.junmiyake.com/

Photo by Bishin Jumonji

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