LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。

アーティストの笹尾光彦さん・つぐみさん夫妻が暮らす、ミニマムな心地よさを、日々育てる住まい。September 07, 2024

笹尾光彦さん・つぐみさん夫妻が一緒に過ごすのはもっぱら1 階のリビングルーム。「自分が過ごしやすいようにしているんだから当然、家にいるのは快適よ」とつぐみさん。
笹尾光彦さん・つぐみさん夫妻が一緒に過ごすのはもっぱら1 階のリビングルーム。「自分が過ごしやすいようにしているんだから当然、家にいるのは快適よ」とつぐみさん。

毎日細部に手をかけ、小さな変化が生まれる家。

 ともにアーティストの笹尾光彦さん・つぐみさん夫妻が暮らすのは、つぐみさんの母が65年前に新築で購入した、建築面積13坪のこぢんまりとした一軒家だ。20年前、高齢になった母に乞われて同居を開始。そして10年前、2年かけて「建売住宅」に大規模リフォームを施した。

 1階の階段下の押し入れ部分は、つぐみさんの作品などを飾る「ミニギャラリー」に。キッチンを広げ、トイレをバスと同じ空間に移動させオープンに。そしてドアはすべて背の高い引き戸に。少しでも広く、また開放的に感じられるよう工夫した。壁と天井は光彦さんが手塗りをしたが、施工は「つぐみの意図を私が図面にして工務店に頼みました。担当してくれた一級建築士から大工さんになった方の、細部へのこだわりや仕事ぶりは見ていて楽しかった」。光彦さんは当時をそう振り返る。そして翌年には屋根と外壁も一新、その時点で築55年だった「建売住宅」は見事にオリジナルな姿に変貌した。

 今は1階をつぐみさんが、2階を光彦さんが主に使うというスペースの住み分けをしつつ、リビングは二人の憩いの場として機能している。ここで毎日の食事と、日に3回はやるというトランプゲームのセブンブリッジを楽しんでいる。「負けた人がお茶を淹れる決まりなの」とつぐみさんが茶目っ気たっぷりに笑う。

つぐみさんの寝室。遊びに来た友人が作ってくれた飾り棚が最近できたことで、ますますお気に入りのスペースになった。
つぐみさんの寝室。遊びに来た友人が作ってくれた飾り棚が最近できたことで、ますますお気に入りのスペースになった。
光彦さんのアトリエへとつづく階段は、光彦さんが好きな家の中の景色。
光彦さんのアトリエへとつづく階段は、光彦さんが好きな家の中の景色。
押し入れだった、リビングの一角。長年愛用している赤いソファはたびたび、独特な色彩感覚で「赤の画家」として知られる光彦さんの絵画のモチーフにもなる。
押し入れだった、リビングの一角。長年愛用している赤いソファはたびたび、独特な色彩感覚で「赤の画家」として知られる光彦さんの絵画のモチーフにもなる。
台所の窓上の棚板は、つぐみさん指定の厚み。「この分厚さが絶妙で、かっこいいでしょう?」と光彦さん。
台所の窓上の棚板は、つぐみさん指定の厚み。「この分厚さが絶妙で、かっこいいでしょう?」と光彦さん。

 アンティークショップや蚤の市で買ったり友人から譲り受けたりした国内外の家具や小物はどれも、二人の審美眼に適ったものばかり。「飾る小物はつぐみがこまめに入れ替えているので、この家では日々、変化が生まれています」と光彦さん。置かれているものたちも、住まい手と一緒に生きているのだ。

 都内で10回以上引っ越しを繰り返してきた二人がこんなに長く同じ家に住み続けているのは、地方にもっていた別荘を除けば初めてのこと。

「小さい家だけど、むしろそれが快適で、安らぎます。ミニマムな暮らしは侘び寂びを好む日本人の精神性にも合っている。細部に神が宿るというのはそのとおりで、家の雰囲気や空気って、暮らす人のすべてが出てしまうよね」と光彦さんは語る。

2階は光彦さんの〝城〞。庭を見下ろせる窓際では作業もはかどる。「小さい部屋が落ち着きます」
2階は光彦さんの〝城〞。庭を見下ろせる窓際では作業もはかどる。「小さい部屋が落ち着きます」
2 階のアトリエ横の光彦さんの寝室。壁には、1 階にある赤いソファをモチーフに光彦さんの描いた連作が。
2 階のアトリエ横の光彦さんの寝室。壁には、1 階にある赤いソファをモチーフに光彦さんの描いた連作が。
笹尾光彦 / 笹尾つぐみ

笹尾光彦 / 笹尾つぐみ画家 / コラージュ作家

渋谷ヒカリエのBunkamura Gallery 8/にて『第27回 笹尾光彦展』(11/7~24)が、隣接会場のショケースaiiimaで『笹尾つぐみコラージュ展』(11/7~11)が開催予定。

つぐみさんが「雑草ガーデン」と呼ぶ庭には、飛んできた種が芽吹いて2 階を超える背丈になったケヤキ〝もどき〞が。
つぐみさんが「雑草ガーデン」と呼ぶ庭には、飛んできた種が芽吹いて2 階を超える背丈になったケヤキ〝もどき〞が。
キッチンのサイドテーブルの黒板には友人が書いてくれた仏語の諺が。意味は「たで食う虫も好き好き」といったところ。
キッチンのサイドテーブルの黒板には友人が書いてくれた仏語の諺が。意味は「たで食う虫も好き好き」といったところ。
階段下に設えた「ミニギャラリー」に置かれたつぐみさんのコラージュ作品のフレームは、光彦さんのお手製だ。
階段下に設えた「ミニギャラリー」に置かれたつぐみさんのコラージュ作品のフレームは、光彦さんのお手製だ。
一般的な木造住宅の1 階を大改造したが、2 階の間取りはほぼ原形のまま。独立した各部屋同士をアクセスしやすくした。
一般的な木造住宅の1 階を大改造したが、2 階の間取りはほぼ原形のまま。独立した各部屋同士をアクセスしやすくした。

photo : Norio Kidera edit & text : Mick Nomura (photopicnic) illustration : Shinji Abe(karera)

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