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食の京都を、暮らすように旅する。
京都さんぽ部だより お出かけ編「宇治と京都の和食」March 30, 2023 / 〔PR〕

&Kyoto

 京都を暮らすように旅する、本誌人気連載「&Kyoto」の番外編。「京都さんぽ部」が、京都市内だけでなく、京都の各地をのんびりと巡る旅。今回のテーマは「宇治茶と京の和食」です。

食の京都を、暮らすように旅する。京都さんぽ部だより お出かけ編「宇治と京都の和食」食の京都 京都観光 京料理 和食 宇治茶 日本茶 京野菜
写真上:お茶どころの宇治といえば、茶団子も名物のひとつ。優しい茶の風味で、好みの食感や味を手に入れる楽しみもある。写真下・しば漬け、千枚漬け、すぐき漬けの三大漬物に加え、壬生菜や水菜といった京野菜や、菜の花など旬の野菜が豊富に揃う京都の漬物。お茶漬けには旨みのある玉露を合わせるのがおすすめ。京都 和食 京料理 京都さんぽ部 宇治 食の京都を、暮らすように旅する。京都さんぽ部だより お出かけ編「宇治と京都の和食」食の京都 京都観光 京料理 和食 宇治茶 日本茶 京野菜
上/お茶どころの宇治といえば、茶団子も名物のひとつ。優しいお茶の風味で、好みの食感や味を手に入れる楽しみもある。下/しば漬け、千枚漬け、すぐき漬けの三大漬物に加え、壬生菜や水菜といった京野菜や、菜の花など旬の野菜が豊富に揃う京都の漬物。お茶漬けには旨味のある玉露を合わせるのもおすすめ。

京の暮らしに寄り添う和食を知る旅、
まずは上質なお茶を探しに、宇治へ。

素材の持ち味を引き出し、旬を大切に育まれてきた日本の大切な食文化・和食。なかでも京都は、ハレの日に料理店で楽しむ京料理から、仏教の教えに基づいた精進料理、日々の食卓のおかずまで、あらゆるシーンで和食が身近にある街。多くの人が暮らす街中から遠くないところに田畑もあって、採れたての野菜が手に入るのも大きな魅力だ。

 そして京都市街から電車で30分ほどの距離にある宇治市は、鎌倉時代に明恵上人が伝えた茶の栽培に始まり、煎茶や玉露を作りあげてきた日本を代表する茶の街でもある。

 京都で食を考えるとき、外すことのできない和食と日本茶。まずは煎茶づくりを間近に見る貴重な体験を求めて宇治へ。茶葉とともに、地元ならではの旬の野菜を手に入れたら、料理家・小平泰子さんに春の味を仕立ててもらう。京の暮らしに寄り添う和食を知る、そんな旅の始まり。

宇治市から南に広がる山城地域は茶の産地として知られている。写真は南山城村・童仙房の広大な茶畑。
宇治市から南に広がる山城地域は茶の産地として知られている。写真は南山城村・童仙房の広大な茶畑。
ゆったり流れる宇治川。宇治が茶の名産地となったのは、宇治川から立ち上る朝霧で茶葉が風味豊かに育つことも理由のひとつ。
ゆったり流れる宇治川。宇治が茶の名産地となったのは、宇治川から立ち上る朝霧で茶葉が風味豊かに育つことも理由のひとつ。
平等院参道を中心に、茶団子を作る店は何軒もある。近年は抹茶に加え、焙じ茶や煎茶を使ったものも。写真は『能登椽 稲房安兼』。
平等院参道を中心に、茶団子を作る店は何軒もある。近年は抹茶に加え、焙じ茶や煎茶を使ったものも。写真は『能登椽 稲房安兼』。

揉みたての煎茶が味わえる
ティースタンドへ。
料理に合わせた茶葉の選び方とは。

急須で淹れた茶は、香りも味わいも格別。
急須で淹れた茶は、香りも味わいも格別。
大谷石のカウンターが目を引く『売茶中村』。中村さんのすぐ奥には製茶のための機械が置かれ、外からでも製茶の様子を眺めることができる。
大谷石のカウンターが目を引く『売茶中村』。中村さんのすぐ奥には製茶のための機械が置かれ、外からでも製茶の様子を眺めることができる。
4月から5月にかけて摘んだ茶葉を、すぐに蒸して急速冷凍。使う分だけを解凍した茶葉を茶に仕立てる。
4月から5月にかけて摘んだ茶葉を、すぐに蒸して急速冷凍。使う分だけを解凍した茶葉を茶に仕立てる。
段階ごとに5台の機械を使い分け、温度や風量、回転速度など、常に茶葉の様子を確認しながら製茶する中村さん。
段階ごとに5台の機械を使い分け、温度や風量、回転速度など、常に茶葉の様子を確認しながら製茶する中村さん。

老舗茶舗から茶房やティースタンドまで、茶にまつわる店々が数多い宇治にあって、今、もっとも注目したいのが2022年10月にオープンした『売茶中村』だ。なにしろ店舗の半分にごくごく小規模な製茶場を作り、いつでも揉みたての茶を作り提供しているのだから。

「通常、茶葉は新芽を摘んだら製茶場ですぐに熱を加え、荒茶と呼ばれる茶に仕立てます。それが行われるのは4月から5月のほんの短い期間だけ。しかも揉みたての溌剌とした香りや味を堪能できるのは、お茶を作る者だけの特権です。その香り、味わいを知ってほしくて」と話すのは、店主の中村栄志さん。宇治の茶商の家に生まれ育ち、茶農家で茶づくりの修業を経た中村さんだからこその発想。世界のどこにもないティースタンドはこうして誕生した。

「宇治茶の魅力は長い歴史に培われたブランド力と、それに負けないよう努力を重ねる作り手がいること」と中村さん。「そうして作られた宇治茶のポテンシャルを最大限に引き出すためには、淹れ方も重要です。茶葉は惜しまず使うこと、お湯を適温にすることを大切に。1煎目は低めのお湯でゆっくりと、3分ほど時間をかけて茶葉を開かせるのもいい。食事と合わせるのは焙じ茶や、京都ならではの炒り番茶が定番ですが、童仙房の煎茶など、旨味が控えめで独特の香気を持つ煎茶もよく合います。お茶漬けには玉露など、出汁と共通するアミノ酸の旨味を持つ茶葉がおすすめ」。茶の持つ旨味を出汁と捉えてお茶漬けに使うなんて贅沢に思えるけれど、すぐに試してみたくなった。

『売茶中村』では茶農家へ足を運び、直接手に入れた茶葉だけを扱う。左上の「きらり31」は、和束で育てられているまだ新しい品種。幼木由来の、若々しく強い香りと味わいを持つ。
『売茶中村』では茶農家へ足を運び、直接手に入れた茶葉だけを扱う。左上の「きらり31」は、和束で育てられているまだ新しい品種。幼木由来の、若々しく強い香りと味わいを持つ。
宇治田原の「大福渓 やぶきた」は、煎茶発祥の地で育てられ、類いまれな茶香と力強い滋味を持つ。長い茶葉が特徴。
宇治田原の「大福渓 やぶきた」は、煎茶発祥の地で育てられ、類いまれな茶香と力強い滋味を持つ。長い茶葉が特徴。
2煎目3煎目と変化する味わいを楽しむためにも、最後の一滴まで残さず注ぎきる。茶葉の持ち味を味わいつくすためにも大切にしたい、淹れ方のポイント。
2煎目3煎目と変化する味わいを楽しむためにも、最後の一滴まで残さず注ぎきる。茶葉の持ち味を味わいつくすためにも大切にしたい、淹れ方のポイント。
1煎目を楽しんだら、茶葉が蒸れてしまうのを防ぐため蓋を開けておくのが、2煎目3煎目もおいしく味わう秘訣。
1煎目を楽しんだら、茶葉が蒸れてしまうのを防ぐため蓋を開けておくのが、2煎目3煎目もおいしく味わう秘訣。

宇治茶を手に入れたら、和食。
旬の京野菜を探して、春の味を食卓に。

茶葉に続いて、野菜を手に入れる楽しみも京都にはある。春の筍、夏の賀茂なすや万願寺とうがらし、秋から冬にかけてのえびいもや九条ねぎ、聖護院かぶなど、京野菜としてブランド認定されている野菜はもちろんのこと、それ以外にも種類は豊富。産地までの距離が近いことから、京都市内の青果店の店頭に並ぶ野菜も新鮮そのもの。その野菜こそが、素材そのものの持ち味を大切にし、四季を皿のなかに写す和食を生み出す。さっと焼くだけ、出汁で煮るだけで、たちまち完成する気取らないご馳走。それはなによりの贅沢だと思う。

 近頃では、そんな地元ならではの魅力ある野菜を知ってほしい、食べてほしいと店を構える若い世代も増えてきた。ひいきの料理人も多い『みどりなす』も、そんな一軒。まるで果物のようなみずみずしさと甘さを持つかぶを食べ、野菜に開眼したという田村嘉章さんが店主だ。久御山町、八幡市、亀岡市、南丹市、京丹後市と農家から直接買い付ける野菜を種類豊富に揃え、街中にありながら京都府全域の旬を届けてくれる。

 料理家・小平泰子さんも『みどりなす』の野菜を愛用するひとり。「旬の野菜はもちろん、山菜や野草などが揃うのも魅力」という小平さんに、京都の旬を愛でる料理を作ってもらうことに。

みずみずしい野菜が並ぶ『みどりなす』の店内。常に商品が入れ替わるため、値段はささっと手書きでという気取らなさもいい。
みずみずしい野菜が並ぶ『みどりなす』の店内。常に商品が入れ替わるため、値段はささっと手書きでという気取らなさもいい。
あれもこれもと手が伸びる小平さんと、店主の田村さん(左)。「食べ方を教えてもらって、料理のヒントにすることも」(小平さん)
あれもこれもと手が伸びる小平さんと、店主の田村さん(左)。「食べ方を教えてもらって、料理のヒントにすることも」(小平さん)
珍しい野草は京都・大原から届くもの。食べ方は親切に教えてもらえる。
珍しい野草は京都・大原から届くもの。食べ方は親切に教えてもらえる。

家庭料理から、ハレの日のご馳走まで。
京都の人のように豊かに和食を楽しむ。

小平さんによる春の食卓。ふきとお揚げさんの炊き込みご飯、若竹汁、菜の花のからし和え、筍の木の芽焼き、山菜の蕗のとう和え。食の京都を、暮らすように旅する。京都さんぽ部だより お出かけ編「宇治と京都の和食」食の京都 京都観光 京料理 和食 宇治茶 日本茶 京野菜
小平さんによる春の食卓。ふきとお揚げさんの炊き込みご飯、若竹汁、菜の花のからし和え、筍の木の芽焼き、山菜の蕗のとう和え。

京都で料理教室を主宰し、旬を愛でる料理とともに京都の知恵と始末の心を伝える小平さん。「料理をする上で大切にしているのは、背伸びすることなく素材を生かすこと。家庭料理ですから、出汁でさっと炊くなど肩ひじを張らずに。とはいえそこには旬のものに出合える喜びがあるし、贅沢ですよね。とりわけ春の素材は香りが大切。口の中で春が駆け巡り、生命力がパッと目を覚ますイメージです。菜の花やウドは、油をひかずにフライパンで素焼きにすれば、生では感じられない甘さが出てきて、ほろ苦さや香りも際立つ。旬の素材をどんな料理にするかを考えながら、作る喜びもあります」と小平さん。この日もささっと手早く、春の料理5品を作ってくれた。

 小平さんが作るのは普段づかいのケの料理。「家でも外でも、和食が身近にあるのが京都のいいところ」と小平さんは言う。「家では季節のものをシンプルに味わう、家族が喜ぶ料理を。外では盛り付けも器もきれいな和食をいただくのが楽しみです」

 旬に触れることを、何よりも大切に。料理店で楽しむ京料理は、旬の素材を使った料理に加え、器づかいやしつらえでも季節を堪能させてくれるもの。春を五感で味わうため、足を運びたい京都の街だ。

京たけのこは京野菜のひとつで、えぐみがなくて甘く、柔らかいのが特徴。長岡京市など京都西山・乙訓一帯の名産。
京たけのこは京野菜のひとつで、えぐみがなくて甘く、柔らかいのが特徴。長岡京市など京都西山・乙訓一帯の名産。
素材を引き立てるため手間ひまをかけすぎないのも大切、と小平さん。
素材を引き立てるため手間ひまをかけすぎないのも大切、と小平さん。
食後の一杯は、お茶漬けにも使った『売茶中村』の「きらり31」で。料理と合わせて食中に楽しんだ宇治田原「大福渓 やぶきた」も、もちろん食後に甘いものと合わせてもいい。
食後の一杯は、お茶漬けにも使った『売茶中村』の「きらり31」で。料理と合わせて食中に楽しんだ宇治田原「大福渓 やぶきた」も、もちろん食後に甘いものと合わせてもいい。
街を歩いていて、季節の草花を目にすることも多い。京料理のもてなしは、移ろう四季を部屋に取り込んでいる。
街を歩いていて、季節の草花を目にすることも多い。京料理のもてなしは、移ろう四季を部屋に取り込んでいる。
SHOP DATA

売茶中村 BAISA NAKAMURA

京都府宇治市宇治蓮華49 ☎︎0774-26-4082 11:00〜17:00 水木休
https://baisa.jp/

売茶中村

八百屋 みどりなす MIDORINASU

京都府京都市下京区松原通り高倉東入杉屋町278 ☎︎075-708-2818 12:00〜19:30 水日祝休
https://www.instagram.com/yaoyamidorinasu/

みどりなす
PROFILE

小平泰子 YASUKO KOHIRA

料理家。料理教室〈五感食楽〉主宰。1977年京都生まれ。航空会社で客室乗務員として勤務。各地の郷土料理や伝統料理を学び、様々な食文化に触れる。2003年、自身の料理教室を京都に開校。2021年からは拠点を京丹波に移し、惣菜づくりも手がける。
https://gokan-shokuraku.com/

小平泰子
INFORMATION

京都府観光連盟

日本茶の歴史をはじめ、海や山の食の恵みに触れる京都の旅を紹介するガイドは、公式サイトから。

edit & text : Mako Yamato photo : Yoshiko Watanabe


「京都さんぽ部」部長、ライター、コーディネーター。 大和 まこ

「京都さんぽ部」部長。ライター、コーディネーター。京都暮らしも、もはや25年目に。連載「&Kyoto」は2022年に100回目を迎えて継続中。京都の景色や、食べたもの、買ったものをInstagram(@makoyamato)で発信している。

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