MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/猪野秀史 (INO hidefumi) vol.4February 24, 2023

February.24 – March.02, 2023

Saturday Morning

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Title.
Bach Orchestral Suite No.3 in D Major, BWV 1068: Ⅱ. Air
Artist.
J.S. Back, The Swingle Singers
5歳からクラシック・ピアノを習い始めました。チェルニー、ソナチネ、ソナタ集など運指の教則が終わるとバッハを練習させられます。地獄のようなレッスンでしたが、音楽の「旧約聖書」とも言われているバッハの『平均律クラヴィーア曲集』はとても楽しく、特に左手が鍛えられました。クラシックは練習を怠ってしまうとすっかり弾けなくなるもので、僕のピアノの技術的ピークは18歳くらいだと思います。高校の頃に声楽のレッスンというのがあって、その頃からクラシックが嫌いになっていきました。そもそも「人の曲を猛練習して何になる!?」という思いがふつふつと湧き上がってきて。ただ、大人になるにつれて曲に潜む和声や調性など色々と役立つことばかりで、音楽の父バッハのイメージも最初は伝統主義者のように感じていましたが、知れば知るほど今日的で革新的。懐古的ではなく、新しい音楽をつくる意欲に満ちた開拓者だと認識するようになりました。ポップスはバロックの時代から始まっているんです。バロックとは「かたちの悪い真珠」という意味があるそうで、ルネッサンス芸術の形式から抜け出した自由な表現。話は大きく変わりますが、この原稿を(前週の土曜の朝にバッハを聴きながら書いてます)そろそろ着地しようと思いながらも、気がつけばバッハと自分のどうでもいい話ばかりで既に文字数オーバー…。すみません。
そんな土曜の朝に、平均律と浮遊感に身を委ねる心地良さを堪能してみて下さい。
アルバム『Bach Hits Back A New A Cappella Tribute』収録。

Sunday Night

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Title.
Eating Noddemix
Artist.
Young Marble Giants
音楽に限らず従来の枠からはみ出したものが好きです。人は批判されたり拒絶されたりすることを恐れがちですが、芯を持って恐れない姿勢が、自分の中での“Punkの定義”です。ヤング・マーブル・ジャイアンツはまさにそんなサウンド。このレコードの帯には「遠く置き去りにしてきた郷愁は現代の混沌にのまれた我々の子守唄だ」と書いてありますが、この曲も子守唄のような歌いまわしの曲。対極的に過激な描写の歌詞も面白いです。上手で流暢な歌は聴き流してしまいますが、引っ掛かりのある素朴な歌は好きです。リリース当時はザ・レインコーツにも通じる独創的でPunkなエネルギーが圧縮されたようなミニマルな音で、手のひらにすくいたくなるような愛おしさを感じます。
日曜の夜は、カルトな映画や本でも読みながら、郷愁と清廉さに身を委ねる心地良さを堪能してみて下さい。
アルバム『Colossal Youth』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ミュージシャン 猪野 秀史 (INO hidefumi)

1970年宮崎県生まれ。フェンダーローズをメインに自身の音楽レーベル「イノセントレコード」(2004年)を拠点として活動を行う。 歪ませた音像で綴られたメロウ・オルタナティヴなアルバム『Satisfaction』はその反逆的で煌びやかな世界観が 海外からも注目を集め鮮烈なデビュー作品となる。 これまでに13枚の7インチレコード、4枚の12インチレコード、8枚のCDアルバムをリリース。 ライブ出演や他アーティストへの楽曲提供、アレンジなど活動は多岐にわたる。

innocentrecord.net

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