Music

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/猪野秀史 (INO hidefumi) vol.3February 17, 2023

February.17 – February.23, 2023

Saturday Morning

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Title.
Big Chief
Artist.
Dr. John
高校を卒業後、福岡の予備校へ通うことになり親不孝通りという場所での寮生活が始まった。毎日のように通ったのは予備校ではなく近くにあったジューク・レコード。New WaveやPost Punkの沼から少し離れていた時期で、R&BやFunkを目当てにサクサクしに行くと「鍵盤やってるならこれ知ってる?」と店主から教えてもらったのがこの曲でした。軽快なニュー・オリンズ・ピアノと独特なドラムのリズムに魅了され、弾けるようになるまで何度もレコードに針を落としては耳コピに没頭。一枚のレコードから僕の鍵盤人生が変化した瞬間でした。その後大学へは進学することなく、ザ・ビーチボーイズに心酔していた眼鏡の男に誘われ福岡でバンド活動に専念。Dr. Johnの曲もハモンドオルガンとピアノを弾きながらよくライヴで歌いました。残念なことに、たくさんのレコードを教えてくれた『ジューク・レコード』の店主やバンドを一緒にやっていたその友人も、この数ヶ月の間に旅立ってしまった。底冷えするようなブルーな話ですが、人は生まれた瞬間から死に向かって生きているといいます。2月の底冷えするような土曜の朝だからこそ、軽快なエモーションと妙手に身を委ねる心地良さを堪能してみて下さい。
アルバム『Dr. John’s Gumbo』収録。

Sunday Night

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Title.
Dream Baby Dream
Artist.
Suicide
高校の頃、N.Y. Punkオタクの女子先輩からもらったカセット・テープに入っていた曲です。いつも寝る前に枕を抱えながらそのカセットを聴いて過ごし、ヘッドフォンは爆音でしたが不思議と深い眠りについていました。D.I.Y.な荒削りな音とバンド名が鮮烈で、それ以降「好きなPunkはなに?」って人に訊かれたら「スーサイド」と答えています。反復的なミニマリズムが独自の快感を生む、デモのようなスカスカなサウンドも無心に描かれた子供の絵のようでたまらない。挑発的なパフォーマンスとエコーを効かせヘタウマに堂々と歌う美学。近年ではイアン・スヴェノニアスのソロ・プロジェクトEscape-ismも、どこかそのニュアンスを継承していて呆れるほどにかっこいい。そして最も共感すべきは自分の自由に対し、徹底的な自信を持って表現をしていること。
一人だけの日曜の夜に、有機的な反復と過激さに身を委ねる心地良さを堪能してみて下さい。
アルバム『The Second Album + The First Rehearsal Tapes』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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ミュージシャン 猪野 秀史 (INO hidefumi)

宮崎県延岡市生まれ。自身の作品を発信するインディペンデントレーベル〈INNOCENT RECORD〉主宰。 フェンダーローズをメインに据えたエレガントかつ攻撃的な楽曲で10数枚の7inchレコードをリリース。 ノンプロモーションにもかかわらず、口コミで国内外からも支持を獲得し数々のクラブヒットを生み出す。 1st.アルバム『SATISFACTION』(2006年)はインディペンデントレーベルの可能性を引き出した鮮烈なデビュー作となった。また全作品のアートワーク制作や他ミュージシャンの楽曲提供、編曲など活動は多岐に渡る。自身による初のボーカルアルバム『SONG ALBUM』(2018年)は細野晴臣、林立夫、鈴木茂、 小西康陽、常磐響、沖祐市(東京スカパラダイスオーケストラ)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、馬場正道らが推薦コメントを寄稿。その世界観は幅広い層の心を揺さぶりながら浸透中。2021年には新作『IN DREAMS』を発表。

innocentrecord.net

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