花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
水に映る葉で「観月」のとき。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.63December 29, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
水に映る葉で「観月」のとき。
旧暦8月の十五夜は中秋の名月。古くは縄文時代からあった月を見る風習は、平安時代になって唐から伝わった文化と合わさり、名月を愛でる風習へと昇華する。その名残を今に伝えるのが大覚寺境内にある大沢池である。建立当時は嵯峨天皇の離宮であった大覚寺。その造営にあたり日本最古の人工の林泉として造られた大沢池は、唐の洞庭湖を模した観月のための池なのだ。当時、貴族は船首に龍の頭と、中国の想像上の水鳥・鷁(げき)の首を彫刻した龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の舟を池に浮かべ、水面に映る月を愛でたという。千二百年の時を過ぎて、 今に受け継がれる観月の夕べ。それは平安貴族も目にしたであろう景色を眺め、古へと思いを馳せるひとときとなっている。
『みたて』が仕立てる観月は丸い葉を水面に映したもの。秋に黄葉する桂の、一葉だけ先に色づいた枝を用いた。緑の葉は黒い水面に溶け込み、黄色い葉だけが月を思わす姿でぽっかりと浮かび上がる。風が吹いて水面が揺れれば、姿は見えずとも池に浮かぶ舟を思わせる仕掛けだ。
桂を見立てたのは形だけにあらず。月には桂の木が生えているという中国の古い伝説があり、転じて日本でも月と桂は縁の深いものとされている。 歴史をひもとく鍵のような桂の一葉だ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2020年11月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。