花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
水に浮かぶ「秋草の吹き寄せ」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.52August 18, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
水に浮かぶ「秋草の吹き寄せ」。
日中に暑さの残る京都も秋分を過ぎれば、いよいよ秋。紅葉に色づく11月までのひとときは寺社や野山を彩る秋の草花が主役となる。大きな水盤を桔梗、秋明菊、女郎花(おみなえし)、河原撫子、仙翁と、草花で満たした『みたて』秋のあしらい。
五山の送り火で鳥居の山として知られる曼荼羅山には、かつて仙翁寺という寺があった。室町時代に中国から伝えられ、境内で栽培されたことから名がついた仙翁は、鮮やかな朱の色が印象的。仙翁寺がなくなって久しい現在は京都府立植物園で目にすることができる鮮やかな花。
黄色く可憐な女郎花は石清水八幡宮のある男山とゆかりが深い。紀貫之が「男山の昔を思ひ出でて、女郎花のひとときをくねるにも、歌をいひてぞ慰めける」と書いた古今和歌集序文から作られた能楽「女郎花」。登場する女郎花塚は『松花堂庭園』の中にあり、女郎花の花と共に佇む。
秋明菊も古く中国から伝来した花のひとつ。貴船で多く見られたことから貴船菊とも呼ばれる、丸い花びらが可愛らしい花は大原野にある善峯寺が名所。9月下旬から10月下旬のひと月にわたり、白、桃色、八重の桃色と5000本もの花が境内に咲き誇る。伽藍とのコントラストに見とれ、時間を忘れる眺めが待っている。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2019年11月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。