小林エリカの文房具トラベラー
ラベル小林エリカの文房具トラベラーvol.27March 01, 2022
かつて私を恐ろしいふり方でふったボーイフレンドは、今思えば物凄いミニマリストだった。さすがにスーツケースひとつでAirbnbに暮らす中国の〈OnePlus〉の共同創業者Carl Peiほどではなかったが、とにかく部屋にあるのはソファベッドと椅子とコンロと数冊の本のみで、貰った物も秒速でなんでも捨てていた。いってみれば、そのミニマリストの男の生活には私自身も不要だったというわけで、私は失恋の苦難を味わうことになる。
さすがにその男には言えなかったが、当時の私は物を捨てられない症候群でゴミ屋敷に等しい部屋に住んでいたので、なおのこと悔しくて仕方なかった。
まあ、ふられたところで学べる教訓など大してあるとも信じていないが、ひとつよかったのは、それを機に私も物を捨てられるようになったこと。
泣きながら部屋をはじめて掃除する私にしっかりした女友達が教えてくれた。まずは物のあるべき位置を決めなさい。そして、そこにラベルを貼りなさい。
以来ラベルは私にとって救世主に等しい。
edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.28 2016年4月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。
作家・マンガ家 小林 エリカ
シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。