小林エリカの文房具トラベラー
小林エリカの文房具トラベラー vol.21「ペーパーウェイト」&STATIONERY / December 28, 2021
かつてかの名探偵シャーロック・ホームズは壁にピストルでVR(ヴィクトリア女王のイニシャル)を撃ち抜き、手紙はナイフでマントルピースに留めていた、というのを読んで以来、なんてクール!と私はひたすら感嘆しながら、いつか真似したいと密かに夢見た。しかし実際は、大層小心な私は、ぴかぴかの壁紙の前に、手紙も書類も丁寧に積みあげ、ちまちま消しゴムやなにかを載せてその場を凌いでいた。なぜならナイフ以外の代用品といっても、私には赤銅色の文鎮的な品しか思い浮かばず、どうにもそそられなかったし、重いだけの物体に意味を見出せなかったからである。
しかし、あるときガラス製のペーパーウェイトをプレゼントされて以来、その素晴らしさに私は俄然開眼した。それは机の上に単に紙を留めるという役割を果たすのみならず、窓から差し込む光にきらめき紙全体を引き立て輝かせているではないか。このオブジェ、いや、文房具の神々しさよ!
今、私は声を大にして言いたい。ホームズさん、一度でいいから、ガラスのペーパーウェイト、試してみてはいかがかしら?
edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.22 2015年 10月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。
作家・マンガ家 小林 エリカ
シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。