TALK あの人が語るベターライフ。

「初夏の北欧の空気を、絵を通して届けられたら」。イラストレーター・平澤まりこさんが語る、アートと暮らし。October 21, 2026

長野と東京の2拠点生活を送る画家・イラストレーターの平澤まりこさんにとって、旅や住む場所を変えることは、作品をつくるための大切なインプットになっている。10月29日(木)から『アルフレックス東京』で始まる展覧会「Life with ART project 平澤まりこ作品展『語りかける木々はことばにならない歌をうたう』」では、今年の初夏に訪れた北欧の風景を、新たな作品へと落とし込んだ。日々の暮らしを整えることと、絵を描くこと。そのふたつがゆるやかにつながる、東京の住まい兼アトリエを訪ねた。

平澤まりこさんの版画作品。
馬のモチーフは、平澤さんの作風を象徴する要素のひとつ。今回の展覧会に並ぶ予定の版画作品。

旅先の風景を、一色ずつ重ねて描く。

北欧を巡る旅は、平澤さんの制作に繰り返しインスピレーションを与えてきた。現地を訪れるたびに人や自然から影響を受けて、そのときどきの自分と重なったものが作品として表れてくるという。今回の展覧会では、5月に訪れたフィンランドとノルウェーでの経験がテーマに。馬と木のモチーフを中心に、版画とアクリル画を制作した。「これまであまり使わなかった鮮やかな色も、ためらいなく選ぶようになりました。旅を通じて、自分の好きな色の幅が広がったような感覚があります」

今回の旅で特に印象に残ったのは、フィンランドのサウナで出合った白樺の木だと話す。

「海に面した『クルットゥーリサウナ』を訪れた際、小さな中庭に一本の白樺の木が立っていました。サウナを出たら目の前の海に入り、木陰のベンチで休む。海からの風を受けて、木の葉がささやくように揺れる音が心地よくて。北欧では、東京にいるときよりも自然と人の距離を近くに感じます」

そうやって旅先から持ち帰ってきたものを、描版画と呼ばれる、一色ずつ色を重ねていく版画の技法で作品に落とし込んでいく。

「版画のプレス機がある工房に通い、インクを調合してくれる刷り師の方と一緒に制作します。事前に明確な完成図は決め過ぎず、あのとき見た夕日の色や白樺の木々の形など、イメージを絵に落とし込んでいきます。その場で即興的に描く部分もあって楽しいですね」

また、近年はアクリル絵具を使ったキャンバス作品にも精力的に取り組んでいるそう。描版画では、その場で色を重ねたり、インクを拭き取ったりしながら生まれる偶然を楽しむ一方、アクリルでは時間をかけて少しずつ筆を進めていく。異なる技法を行き来することで、描くことそのものへの新しい発見も生まれているという。

アトリエに立つ、イラストレーター・平澤まりこさんと、制作中のアクリル画。 | アクリル画の制作は、自宅のアトリエで行う。床に置いた作品は、ノルウェーで見た夕暮れの景色がモチーフに。「最初、ベースに塗った赤が濃く感じたのですが、上に白を重ねたら好きな色合いになり、そのまま採用しました。ひとつずつ手探りで描いていく時間が楽しいですね」
アクリル画の制作は、自宅のアトリエで行う。床に置いた作品は、ノルウェーで見た夕暮れの景色がモチーフに。「最初、ベースに塗った赤が濃く感じたのですが、上に白を重ねたら好きな色合いになり、そのまま採用しました。ひとつずつ手探りで描いていく時間が楽しいですね」
平澤まりこさんがフィンランドのフリーマーケットで見つけた、白樺のカゴ。 | 壁掛けの筆入れとして使っているのは、白樺のかご。「フィンランドのフリーマーケットで見つけたものです。花かごとして作られたものらしいのですが、サイズがちょうどよかったので筆を入れています」
壁掛けの筆入れとして使っているのは、白樺のかご。「フィンランドのフリーマーケットで見つけたものです。花かごとして作られたものらしいのですが、サイズがちょうどよかったので筆を入れています」

暮らしを整えることが、作品にもつながっている。

イラストレーターとして、依頼されたテーマに応えることから始まった平澤さんのものづくり。一方で、作家としての作品は「ゼロからのスタート」で、何を描いてもいい。その自由に最初は戸惑いながらも、いまはそこにやりがいを感じているという。ただ、自分の状態がそのまま作品に表れるからこそ、日々の自分を整えておくことを意識するようになった。

「何か引っかかってるものとか、モヤモヤとかがあると全部絵に出ますね。だから、朝起きたときにまず呼吸を整える時間を持つ、といった毎日の習慣が大事だと感じます」

長野と東京を行き来しながら暮らす平澤さん。環境が変化するたびに新しい発見があるから、住む場所を変えることも自分にとって大切なのだという。「長野も自然と距離が近いので、森を歩いて作品のインスピレーションを受け取っています」

旅に出ることも、拠点を移すことも、朝に呼吸を整えることも、すべての行動が制作へとつながっている。「外から受け取ったものを私らしく描けるよう、常に自分の中をクリアに保つことを心がけています。作品を通して、自然の心地よい空気を届けられたら」

北欧の広々とした空気や、木々が風に揺れる気配。会場に足を運んで、そんな目に見えないものまで感じ取ってみたい。

For Better Life
「ベターライフのために大切にしていることはありますか?」

スイートグラス

&Premiumが大切にしている「Better Life(より良き日々)」。それを叶えるためのヒントを平澤まりこさんに聞いてみました。

「朝の呼吸を整える時間」:起きたらまずスイートグラスやホワイトセージといったハーブを焚いて、10分ほど呼吸を整えます。その日の状態に合わせた呼吸法で、深く吸って、ゆっくり吐く。そうしていると、頭の中が少しずつクリアになり、「今日これを描こう」といったアイデアが浮かんでくることも。1日の始まりに欠かせないひとときです。

平澤まり子さん

平澤まりこ Mariko Hirasawaイラストレーター

東京生まれ。広告やパッケージデザイン、絵本など、幅広い分野で活躍。近年は描版画という独自の手法を用いた版画作品の制作をメインに国内外で個展を開催している。著書に作品集「いつかの森」(求龍堂)、「ミ・ト・ン」(幻冬舎文庫、小川糸との共著)ほか多数。

Event InformationLife with ART project 平澤まりこ作品展
『語りかける木々はことばにならない歌をうたう』

会期:2026年10月29日(木)~11月17日(火) 水休 入場無料
時間:11:00〜18:00
会場:アルフレックス東京
住所:東京都渋谷区広尾1-1-40 恵比寿プライムスクエア1F
企画:noie.cc

オープニングレセプション
日時:10月29日(木) 18:00〜20:00 予約不要
平澤さんによるギャラリートークを開催。

photo : Elaine Lam

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