MUSIC 心地よい音楽を。

土曜の朝と日曜の夜の音楽。 今月の選曲家/平松麻 vol.3July 16, 2021

July.16 – July.22, 2021

Saturday Morning

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Title.
Waltz No.4 in F major, Op.34 No.3
Artist.
Dinu Lipatti
原稿を書くときはいつも「名曲喫茶ライオン」の2階窓辺に居座る。この文章も今そこで。
オレンジジュースを注文するついでに、若い店員さんに、どの曲でもいいので「ディヌ・リパッティかけてください」とリクエストメモを渡した。リパッティの顔は私にとって「描きたくなる顔」。この目には何かがある…この目が追うことは何なんだろう? そう思うとドキドキしてきて、描きたい衝動がざわつく。
ルーマニアまで出向いて、あなたがピアノを弾いている間近くに絵をかけさせてもらえませんか…なんてお願いできたらどんなに恍惚気分か…夢想してしまう。
自分の寿命を悟っていたリパッティのラストリサイタルが収録されたこのアルバムは、彼が最後の力を振り絞った演奏の記録。このリサイタル3カ月後に夭折したピアニストが弾く、ショパンのたった1分57秒(とは思えない凝縮)を聴きながら、強いきもちの1日をはじめる。
アルバム『The Last Recital』収録。

Sunday Night

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Title.
C’est toujours la même chanson
Artist.
Lucienne Boyer
パトリス・ルコントの恋愛映画『橋の上の娘』を観ているあいだ、この数年なんだかんだフランスには毎年行っていたなと思い返した。
フランス語の発音が好きだから、フランスの詩もよく読む。旅の道中、道端でスケッチしていて子供に囲まれたときは、フランス詩を皆に読んだりもした。もちろんへたくそだし「何言ってるかわかんない!」と多分子供たちは言ったから「だよね」と私も言って、一緒にみんなで大笑いした。映画を観始めたのは0時過ぎで、すっかり夜も深いけれど、旅の記憶の熱が冷めず、イヤホンでシャンソンを聴いた。追いフランスする。
「あなたとわたしが愛の言葉をどんなに新しい曲にしてみも、それはいつも同じ歌になるんだわ」そんなかんじかなぁと歌詞を思い浮かべる。
リュシエンヌ・ボワイエのシルクの毛布のようなこの1曲で瞼がきもちよく重たくなってきます。
アルバム『Parlez–Moi D’Amour』収録。



&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

&Music / 土曜の朝と日曜の夜の音楽 Ⅱ

音楽好きの“選曲家”たちが月替わりで登場し、土曜の朝と日曜の夜に聴きたい曲を毎週それぞれ1曲ずつセレクトする人気連載をまとめた「&Music」シリーズの第2弾。 23人の選曲家が選んだ、週末を心地よく過ごすための音楽、全200曲。 本書のためだけにまとめた、収録作品のディスクガイド付き。

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画家 平松麻

1982年生まれ、東京都出身。油彩画を主として展覧会での作品発表を軸に活動する。2020年6月~2021年末まで、朝日新聞夕刊連載小説、柴田元幸新訳「ガリバー旅行記」の挿絵を担当中。森岡督行『本と店主』(誠文堂新光社)、村上春樹・アンデルセン文学賞受賞の講演テキスト『MONKEY vol.11』(SWITCH PUBLISHING)、穂村弘『きっとあの人は眠っているんだよ 穂村弘の読書日記』(河出書房新社)、三品輝起『雑貨の終わり』(新潮社)など挿画も手掛ける。マッチ箱に絵を描くシリーズ「Things Once Mine かつてここにいたもの」も発表中。

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