長田佳子の季節のハーブを愉しむお菓子。

vol.9 タルト・タタンHerbal Sweets / December 23, 2020

自然からのいただきものであるハーブの力を取り入れて、心と体に優しく寄り添う「レメディ」のようなお菓子を作る〈foodremedies〉として活動する菓子研究家の長田佳子さん。砂糖にはない甘さやほのかに感じる苦味、鼻をくすぐるいい香り——。ハーブはそのときの心と体の状態によって、五感で感じ取るものが繊細に変化する奥深さを秘めた暮らしに役立つ植物です。そんな季節のハーブを使った長田さんオリジナルのお菓子のレシピを紹介するこの連載。第9回は「タルト・タタン」をお届けします。

This Month's Herbal Sweets

「タルト・タタン」

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旨味がギュッと凝縮された、濃厚だけど軽やかなタルト・タタン。

寒い季節のフルーツといえば、リンゴをイメージする人も多いのではないでしょうか?
爽やかな甘さを味わえるリンゴをシンプルにいただくのはもちろんおいしいですが、“冬ごもりのお楽しみ”に、ひと手間かけてタルト・タタン作りにチャレンジしてみましょう。
フランスの伝統菓子として知られるリンゴのお菓子の誕生は、19世紀の終わり。背景には意外なストーリーがあります。パリ南方のソローニュ地方で小さなホテルを経営していたタタン姉妹が客に振る舞うデザートを作り忘れたことがあり、むいていあったリンゴとバターと砂糖を型の中に詰めて焼いてみたそう。このままだと、デザートとしては不完全な状態。そう判断したタタン姉妹の姉は、タルトの生地を作りリンゴの上にのせて、再びオーブンに。焼き上がったタイミングで、一枚の大皿を取り出し、型の上にかぶせ、丸ごとひっくり返して出来上がったのが、タルト・タタンでした。失敗をなんとかリカバーしようと “その場のひらめき”を結晶化させたエピソードを知ると、お菓子を作る楽しみやワクワクがより一層、膨らんでいくものです。今回のレシピでは、ベースとなるきび砂糖とバターとリンゴ、ローゼルというハーブと爽やかな香りを放つカルダモンを加えて、キャラメリゼを作ります。リンゴに染み込んだ香ばしくてスパイシーなキャラメリゼの風味、いい感じにクタッとしたリンゴのやわらかな食感、それらを支えるようなパイ生地。その一つ一つ存在感のある味が一体になった濃厚な味は絶品。ローゼルの紅紫色に染まったフィリングの艶めかしい美しさにも見惚れます。今年一年の出来事を振り返りながら、お茶の時間をゆっくり楽しんでみてはいかがでしょう。

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ローゼル

世界各地の熱帯地方で広く栽培されている植物。ビタミンC、ミネラル、ペクチン、カリウムなどが豊富に含まれ、古代インドやエジプトの王家では不老長寿の秘薬とされ、女性の美容には欠かせないものだと言い伝えられています。種を包む鮮やかな紅紫色の萼(がく)や総苞片(そうほうへん)はハイビスカスティーの材料として使用されることが多く、爽やかな酸味が特徴です。乾燥させてハーブティーに使用したり、砂糖と煮詰めてジャムにしたりすることで、より日常的に楽しめます。
 

レシピ15cm丸型1台分

パイ生地  2枚分 


・バター50g

・塩1g

・卵黄1個分

・薄力粉100g

・水20g



フィリング


・リンゴ(紅玉やシナノスイートやふじなど)小4〜5玉(650〜700g程度)

・きび砂糖80g

・水10g

・バター25g

・ローゼル4つ

・カルダモンホール2粒


How to cook

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1. パイ生地を作る。ボウルに柔らかくしたバター、塩、卵黄を入れゴムベラで混ぜ、薄力粉を加えて馴染んできたら水を入れさらに混ぜる。
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2. ひとまとまりになったらラップで包み、冷蔵庫で15分休ませる。
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3. 冷蔵庫から生地を取り出す。生地をめん棒でのばし、15cmのセルクルで2枚分抜く。オーブンシートを敷いた天板に生地を置き、180℃のオーブンで25分を目安に焼く(※2枚のうち1枚は冷凍庫で保存し、次に作るときのためにストックしておいても)。
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4.フィリングを作る。カルダモンは皮から実を出して刻む。ローゼルの萼(がく)と種を取り除き、皮を用意する。リンゴは皮をむいて一口大にカットする。
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5.フライパンにきび砂糖と水を入れ、中火にかけて溶かし、バターを加えてキャラメルを作る。4.のリンゴとカルダモン、ローゼルを一緒に炒め、リンゴの角がやわらかくなり汁が出てきたら火を止める。
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6.型にバターを塗る。
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7.型にフィリングを敷き詰める。汁も流し入れ、200℃のオーブンで50分ほど焼く。さらにオーブンを180℃に設定し、型を180度回転させて20分ほど焼く。
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8 焼きあがったフィリングに3の生地をかぶせて優しく押さえ、リンゴに含まれているペクチンで接着させる。粗熱をとり、1時間ほど冷凍庫に入れて固まったら、型の周りを湯煎などであたためて、側面をナイフでぐるりとし、ひっくり返して型から出す。
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photo: Hiroko Matsubara edit & text : Seika Yajima
ハーブ:まるふく農園 器:北欧アンティーク キッチンクロス提供:FLUFFY AND TENDERLY

菓子研究家 長田佳子

<プロフィール>

菓子監修 長田佳子〈foodremedies〉
菓子研究家。レストラン、パティスリーなどでの修業を経て、YAECAフード部門「PLAIN BAKERY」でメニュー開発、お菓子の製造を担う。2015年に独立。〈foodremedies〉という屋号でハーブやスパイスなどを使ったまるでアロマが広がるような、体に素直に響くお菓子を研究している。著書に『foodremediesのお菓子』(地球丸)、『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)などがある。

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