〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景
庭に石を並べるように、ひとつひとつの礫を仕上げる。
―京都仙洞御所 南池の洲浜―〈御菓子丸〉が一皿で表す、京都、寺社仏閣の風景 番外編July 27, 2023
京都で和菓子を制作する〈御菓子丸〉が、四季折々の寺社仏閣の風景を、独創的な菓子と文とで表現。京都の風景に思いを馳せたくなる、美しい一皿を紹介します。
京都仙洞御所 南池の洲浜
礫(つぶて)
17世紀の初め、後水尾天皇が上皇となった際に造営された京都仙洞御所。仙洞とは本来、仙人の住む所を意味し、広い池に架かる八ツ橋や、隅々まで手入れの行き届いた植物の様子を見ると、仙洞という名にふさわしい清らかな空気が流れている。その中でも特に印象的な風景が南池の洲浜だ。
神奈川・湯河原から運ばれた石が敷き詰められ、その数11万1千個。当時、京都まで持ってくるだけでもかなりの仕事だったと想像する。その執念ともいえる石が並ぶ姿は圧巻で、丸い石だけで見立てられた洲浜(浜辺と入り江)の姿が愛おしい。
この石たちを菓子にするべく、松の実を手に取った。卵白に和三盆糖をすり混ぜたものに色付けとして竹炭を入れ、とろっとした液体を松の実にコーティングしていく。石らしい表情を出すために、グレーには濃淡をつけた。表面が乾いたら出来上がり。カリッとした食感と、中から溢れる松の実の油分が味わえる菓子が生まれた。
一個一個コーティングして菓子を仕上げていく作業と、石を一個一個並べていく作業とが時をこえて、重なるように感じた。
『京都仙洞御所』京都市上京区京都御苑2 ☎075-211-1215 参観はガイドによる案内のみ 月祝休ほか不定休 参観料無料 当日枠もあり。
photo : Yoshiko Watanabe
*『アンドプレミアム』2023年9月号より。
和菓子作家 杉山早陽子
1983年三重県生まれ。老舗和菓子店での修業を経て、2006年から和菓子ユニット〈日菓〉として活躍。2014年から〈御菓子丸〉を主宰。