花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
木箱の梅が告げる「立春」。Vol.8 / August 12, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
木箱の梅が告げる「立春」。
迫力ある追儺式(ついなしき)で知られる〈吉田神社〉の節分祭、壬生狂言「節分」が奉納される〈壬生寺〉の節分会、良縁や衣装持ちのお守り・懸想文(けそうぶみ)が授与される〈須賀神社〉の節分会、花街で繰り広げられる「お化け」など、季節の変わり目の邪気や厄を払い、福を呼び込むために様々な行事が行われる京都の節分。〈みたて〉では根付きの紅大豆と柊を楮の紐で束ね、節分飾りとする。
節分が終われば翌日からは立春。二十四節気のひとつで、この日から新しい一年となり、春が始まる。立春の早朝、禅寺では門に「立春大吉」と書いた札を貼り、厄を祓うという。2016年の立春は2月4日からで、まだまだ寒い京都も少しずつ春の気配が感じられるようになる頃。立春のため〈みたて〉が切り取ったのは、時に雪が降る季節に日一日とほころび咲き始める梅の花。京都には境内に50種1500本もの梅が植えられた梅苑のある〈北野天満宮〉をはじめ、〈京都府立植物園〉や〈梅宮大社〉〈京都御苑〉など梅の名所も数多い。雪に見立てた綿花を敷き詰めた四寸の木箱に、あしらうのは古木にむしたウメノキゴケと、紅梅の花とつぼみ。ウメノキゴケは梅や松などの樹皮に着生し、盆栽などではその風情を味わうための苔。その荒々しさが紅梅の可憐さを、よりいっそう際立たせてくれる。届けられた木箱の蓋を開ければ、たちまち春の知らせを運んでくれる小さな〈みたて〉の世界だ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年2月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。