花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
広い世界を見る「夏あそび」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.61December 01, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
広い世界を見る「夏あそび」。
青竹に流した水羊羹、葛と小豆をあわせて表面を焼いた葛焼き、暑い頃に食べて暑気を払う懐中汁粉、道明寺粉と寒天の道明寺羹、調布生地で鮎をかたどった焼き菓子、寒天を使った錦玉。季節を写した菓子を愛で、味わうのも京都の夏の楽しみのひとつ。意匠や素材づかいに心は弾み、つかの間、暑さをも忘れさせてくれる。
『みたて』が作る盛夏のあしらいは、かつて錦玉や葛饅頭を作るのに使われていたガラス型を使ったもの。今では陶器のものが主流となって、使われることも減ったガラスの型はぽってりと厚く、気泡が入ったり少し歪んでいたりと表情豊か。磨りガラスの皿に水を張り、浮かべた花の上から型をかぶせた。姫沙羅、露草、小紫陽花、撫子、紅花。ガラス越しに見る小花はゆらゆらとして、和菓子を思わせる姿。いつまでも愛でたい可愛らしさと、涼感を届けてくれるのだ。
折々の季節を写した和菓子は、小さくともいくつもの物語を紡いでくれる存在。同じ菓子を愛でても、ある人は夏のまだ涼やかな朝を思い、また別の人は真夏の日差しにきらめく野を思うといった具合に、思い浮かべる景色は人それぞれ。和菓子に見立てた花に、どんな世界を見るか。小さな中に夏の遊び心が詰まっている。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2020年9月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。