花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
冬景色を写す「柚子寄せ植え」。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.54September 01, 2022
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
冬景色を写す「柚子寄せ植え」。
嵐山から愛宕山へと分け入った山里に、ひっそりと佇む水尾の地。清和天皇がこよなく愛し、葬られていることでも知られる水尾は、柚子の里としても名高い。遡ること鎌倉時代、花園天皇が中国から伝わった柚子を植え、日本での栽培が始まったとされる。山あいの寒冷な空気と清らかな水、そして今では珍しい種から育てる実生栽培で時間をかけて育まれた柚子は、大ぶりで香り高いのが特徴。京料理や和菓子に欠かせない冬の味だ。柚子の収穫を迎えた10月の終わりから春先にかけて、民家を開放して柚子風呂と柚子を使った鶏鍋が供されるもてなしも、今では寒い季節の水尾の風物詩となっている。
もうひとつ千本釈迦堂や了徳寺などで知られる、無病息災を願う冬の行事に大根焚(だいこだ)きがある。水尾からも遠くはない鳴滝にある三宝寺では日蓮上人を偲んで行われ、その日蓮上人が体を温める薬と柚子を珍重したことにちなみ、大根焚きとともに柚子ご飯が振る舞われている。
柚子の木を窯道具のサヤに植え、山ゴケをあしらった『みたて』の寄せ植え。台はくさびの跡が残る井戸瓦。鉢を小さく、木も小ぶりに仕立てることで柚子の実を強調した。色づく様が、柚子とともにある京の冬景色を伝えるものに。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2020年1月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。