花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
可憐に咲く野菊に「着せ綿」を。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.4 / July 15, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
可憐に咲く野菊に「着せ綿」を。
9月9日は菊の節句ともよばれる重陽の節句。五節句が生まれた中国では、厄除けや不老長寿の力を持つとされた菊を酒に浸して飲む、菊酒の風習があったという。平安時代に日本へと伝わった後、宮中で営まれた独自の風習が菊の着せ綿だ。節句の前夜に菊の花を綿で覆い、翌朝、花の露や香りを移しとった綿で顔や体をぬぐって、不老長寿や無病息災を願った。始まった頃は特に決まりはなかった色使いも、近世になると白菊には黄色の綿、黄菊には赤い綿、赤菊には白い綿と決まり事ができるほど盛んに。やがて新暦へと代わり9月が菊には早い時期となった現在では、京都を中心とした菓子屋で作られる上生菓子に、赤と白の着せ綿の意匠が残るだけになっている。
はかなげな野菊しかなかった平安時代に思いを馳せ、〈みたて〉で使うのは野菊。この風習が始まった当時は、特に色の組み合わせに決まりはなかったことから、白一色の菊に合わせて彩る綿は五色に。繭から作った絹の真綿は、江戸時代から続く自然素材を使って染めを手掛ける〈染司よしおか〉によるもの。赤は茜の根、黄は近江・伊吹山で育つ刈安、青は藍、紫は紫草の根を使い、古法を守り染め上げた。ふわりと優しい綿とごく控えめな色が、可憐な白菊をそっと包む。
ゆらゆらと少し揺れる花台に目を留めれば、それは役目を終えた蹴轆轤(けろくろ)。飾らない姿が菊を引き立てる花台も〝みたて〞のひとつだ。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2015年10月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。