花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」

「州浜草のなげいれ」と意匠。花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」 Vol.35March 03, 2022

花屋<みたて>に習う植物と歳時記 折々に見立てる 京の暮らし

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

「州浜草のなげいれ」と意匠。

「州浜草(すはまそう)のなげいれ」と意匠。

 水温む春。野山のあちこちにも花が咲く季節、『みたて』のあしらいは州浜草のなげいれ。鉄製の灯火器に須恵器の小さな器を置き、そっと生けられた州浜草。3つに分かれた葉の先が丸くなった形からその名が付いた、早春から初夏にかけて花咲く可憐な山野草だ。花器に見立てた道具の落ち着きが、紅色の花の鮮やかさを引き立てている。
 州浜とはそもそも水辺の流れによって、土や砂が運ばれ水面に現れたところ。曲線を描いた浜の姿は優雅で美しく、桂離宮の黒石の州浜や仙洞御所の白石の州浜、天龍寺の曹源池庭園などでも水辺に表現されている。豆の粉から作る菓子が州浜という名であるのもまた、切り口が州浜の形に似ていることから名付けられたもの。自然の造形美から生まれた意匠が巡って戻り、植物の名の由来になっているのもおもしろい。
 浅く炒って挽いた大豆の粉に、水飴や砂糖を練り合わせて作る州浜。飴で練り上げることでむっちりと凝縮した豆の、香りと風味が豊かな和菓子だ。切れば州浜の形になる棹物を360年にわたって作り続けた『御州濱司 植村義次』は残念ながら暖簾をおろしてしまったものの、今も州浜生地の菓子は京都の菓子店の多くで作られている。州浜草の生け込みを愛でつつ味わいたいものだ。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2018年5月号より。


花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

hanaya-mitate.com

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