花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
「踏青」の木箱に写す春の野。Vol.24 / December 16, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
「踏青」の木箱に写す春の野。
踏青(とうせい)とはその字のとおり、春に青草の上を歩く古代中国の風習から生まれた言葉。野遊びやピクニックをして、野山に萌え出ずる草花の精気を身体の内に取り込み、英気を養うのだ。
京都で暮らす中で、もっとも身近にある野山といえば鴨川の川原。折々の自然を楽しませてくれ、季節を伝えてくれる場所でもある。なかでも心沸き立つのは春の頃。水が温むにつれて緑が芽吹き、野の花が次々と咲き、日一日と色濃くなってゆく鴨川の景色。その足元に広がる景色を切り取ったのが踏青の木箱だ。主役はホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ヤエムグラ、カラスノエンドウ、スズメノエンドウといった、普段はほとんど花のアレンジに使われることのないさりげなく咲く野の花。苔むした杉皮、ケヤキの落ち葉、どんぐりも一緒に添えて、春の自然な野の姿を再現したのがいかにも『みたて』らしい。野の花は可憐で弱いように見えて実は生命力に溢れて強いだけに、箱に詰めても3日もすればすっくと伸び立ち上がってくるものもあるという。蓋を開ければ春の気が溢れ出るような木箱。仲春から晩春と季節が移るにつれ、彩りを添える草花も移り変わる。鴨川散歩のひとときという広々とした世界を、小さな箱の中に見る面白さがここにある。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2017年6月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。