花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」

消し炭で作る「五山の苔山」。Vol.15 / October 14, 2021

花屋<みたて>に習う植物と歳時記 折々に見立てる 京の暮らし

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

消し炭で作る「五山の苔山」。

消し炭で作る「五山の苔山」。

 東山如意ヶ嶽の大文字、松ヶ崎西山・東山の妙・法、西賀茂船山の船形、金閣寺北山の左大文字、嵯峨仙翁寺山の鳥居形。毎年8月16日の夜、大文字を皮切りに5つの山に火を灯し、帰ってゆく霊を送る夏の京都の風物詩が五山の送り火。その始まりは諸説あり、平安時代に弘法大師が始めたとも、室町時代の足利義政とも、江戸時代の近衛信尹とも、地元でいつしか始まったとも伝わる。真っ暗な山々に火が灯され文字が描かれていく様子は、ふと暑さも忘れるほど厳かな光景。始まりは定かでなくとも、五山の地元の人々で大切に守られ、無病息災や家内安全を祈る行事でもある送り火。その火が消えてゆくと同時に、そろそろ夏も終わりと寂しさが心をよぎる。
 翌朝には五山に登り、送り火を焚いた松明の消し炭を手に入れるのもまた、送り火にまつわるひとつの行事。消し炭は奉書紙に包んで水引を掛け、玄関に飾れば魔除けや厄除けになると伝わる。
 その消し炭を中心に苔をあしらい、苔玉ならぬ苔山に仕立てたのが〈みたて〉の五山の送り火の飾り。五山にならい5つを並べたうち、とりわけ立派なものを大文字、連なるものを妙法に見立てた。たっぷりと水を含ませた苔の緑と炭の黒のコントラストは、美しく手入れされた庭を見るようでも、野趣を感じる野山を見るようでもある。愛でる楽しみも加わった消し炭は、また新たな京都の奥深さを伝えてくれるあしらいだ。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年9月号より。


花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

hanaya-mitate.com

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