花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」
「竹酔日(ちくすいじつ)」のしつらえ。Vol.12 / September 23, 2021
四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。
「竹酔日(ちくすいじつ)」のしつらえ。
旧暦5月13日は竹酔日。かつて中国ではこの日に竹を植え替えれば、竹がまるで酒に酔ったように場所を移されたことに気付かず、よく根付き育つと伝わる日。竹酔日に植えられなければ竹に5月13日と書いた紙を貼ったり、吊るすだけでもよいともいわれたという。
「降らずとも竹植うる日は蓑と笠」の句を詠んだのは松尾芭蕉。竹植うる日=竹酔日には蓑と笠の姿が似つかわしい。雨が降っていなくても蓑と笠を身につけたいものだと、この日を芭蕉の美意識で切り取った。6月20日に〈鞍馬寺〉で今も行われるのは「竹伐会式(たけきりえしき)」という千年の古儀。中興の祖・峯延上人が大蛇を法力で退治した故事にちなみ、僧兵の姿の鞍馬法師が近江と丹波に分かれ、大蛇に見立てた青竹を伐る。その速さで豊作を占い、水への感謝を捧げるのだ。
〈みたて〉が店を構えるのは市内の北、紫竹(しちく)と呼ばれる地域。地名の由来の一説には、かつて紫竹が自生していたからとも伝わる。現在、紫竹は黒竹(くろちく)と呼ばれるのが一般的で、その黒竹を使い竹酔日のあしらいを仕立てた。竹を植えることからイメージを膨らませ、根で繋がる2本の黒竹を主役に。根をリースのように丸めて形づくり、笹の葉を漉いた和紙に留めて飾り、芭蕉の句を思い蓑を横にそっと置いた。アートピースのようでもあるその姿は、生きた竹を使う一期一会のインスタレーションのようでもある。
photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年6月号より。
花屋 みたて
和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。