真似をしたくなる、サンドイッチ

鶏皮チップスが散りばめられた、パリのローストチキンサンド。April 01, 2024

サンドイッチをこよなく愛するパリ在住の文筆家、川村明子さん。『&Premium』本誌の連載「パリのサンドイッチ調査隊」では、パリ中のサンドイッチを紹介しています。
ここでは、本誌で語り切れなかった連載のこぼれ話をお届け。No39となる今回は、本誌No125に登場した『ロティスリー・セガール』で惜しくも紹介できなかったサンドイッチの話を。

川村さんによる精巧なスケッチから。店の人に見せると、大喜びされて「飾りたい!」と言われることもあるのだとか。サンドイッチ
川村さんによる精巧なスケッチから。店の人に見せると、大喜びされて「飾りたい!」と言われることもあるのだとか。

フランスの精肉店事情について。

フランスの精肉店では、店先にロースターを置き、鶏の丸焼きを売る店が少なくない。通りや広場に立つマルシェに行けば、大抵、家禽(かきん)類を専門に扱う店が出ていて、そこには決まって大人の背丈ほどの大きなロースターがあり、鶏が焼かれている。そのほかに、ロースト肉専門店というのもある。こちらは生肉は扱わず、焼いた肉のみを売る。鶏肉だけでなく、仔牛肉や豚肉も焼いていることが多い。

仲良し二人組が始めた、ローストチキン専門店。

ヴィクトールとエレナの二人。「一緒に店をやったら楽しそうじゃない?」と始めることにした。 サンドイッチ 川村明子
ヴィクトールとエレナの二人。「一緒に店をやったら楽しそうじゃない?」と始めることにした。

以前よりも見かけることが少なくなった気がするこのロースト肉専門店を、ヴィクトールとエレナが、5区の商店街・ムフタール通りにオープンしたのは1年半ほど前。ホテル学校の同級生だった彼らは卒業後も仲のいい友人で、二人ともいつかレストランをやりたいと思っていた。一緒に実現しようと決めて、まず最初のビジネスとして選んだのが、ローストチキンの専門店だ。理由は、まず、鶏肉は世界で最も食べられている肉で、フランスにおいてローストチキンは“シェアする”食べ物の象徴でもあること。そして、2キロの鶏を育てるには、2キロのとうもろこしと水だけで良いと飼育も非常にシンプル。手の届きやすい商売、かつ、エコロジーという彼らの考えに適っている。

余ったローストチキンを活用して。

サンドイッチは、食品ロスを出さないために作ることにしたらしい。具材には、前日の残りのローストチキンを活用する。フランスでは焼き汁をソースとして使うのが一般的だが、そこにちょっとした工夫をまず加える。焼き汁をひと晩置くと脂が固まるので、それを取り除く。そして、エキスだけになった焼き汁と野菜のブイヨンを合わせ、ローストチキンをマリネする。マリネ液の絡んだ肉を手でほぐして、それが具になる。

小中学校が休みの水曜日には、昼どきを前に、孫の手をひきローストチキンを買いにやってくるマダムたちが立て続けにいた。付け合わせの野菜も、ローストしたもの。
小中学校が休みの水曜日には、昼どきを前に、孫の手をひきローストチキンを買いにやってくるマダムたちが立て続けにいた。付け合わせの野菜も、ローストしたもの。
ローストチキンは一羽丸ごと、半羽、4分の1羽から買える。ソースもつけてくれる。
ローストチキンは一羽丸ごと、半羽、4分の1羽から買える。ソースもつけてくれる。

ローストチキンシーザーサンドをいざ!

サンドイッチは3種類。そのうちの一つに、ぜひとも家でやりたい!と思う具材が用いられていた。メインの具は、どれもローストチキンに変わりはないのだけれど、サンドイッチに加えるときには、皮を取り除いている。でも、その皮を無駄にすることに気がとがめた。捨てたくなくて、チップスに仕立てることにした。そうすると、カリカリに焼いたベーコンのようになる。それを活用して生まれたのが、シーザー風ローストチキンサンドだ。鶏皮チップスを一面に散りばめて、茹で卵とアンチョビがベースの自家製シーザーソースをかけたローストチキンサンドは、封を切ったら最後、止まらなくなってしまうポテトチップスのごとく、無心で食べ続ける味だった。完全なる手作りなのに、ジャンクな味。

鶏皮チップスが散りばめられた、ローストチキンシーザーサンド。サンドイッチ 川村明子 ローストチキンシーザーサンド

表面からは見えないけれど、中には歯応えのあるアイスバーグレタスが太めの千切りでたくさん詰まっていて、シャキッとした瑞々しさで適度に口を潤してくれるから、どんどん食べ進む。鶏は、マスタードとローリエ、タイム、ローズマリーを胴内に詰め、外側にはスモークのパプリカパウダーをロースターで焼いている。そうすると、くるくる回るうちに、胴内のマスタードが鶏全体に行き渡り、さらにはそのエキスが内側から外側に浸透して、焼き汁として、ロースターの下に滴り落ちる。それをマリネ液として使うわけだから、隠し味的な風味さえも、無駄にしていない。これが8ユーロで食べられるのは、今のパリではかなり希少だ。

サンドイッチは週末も売っている。平日は早い時間に売り切れるので、13時前までに着いた方がいい。サンドイッチ 川村明子
サンドイッチは週末も売っている。平日は早い時間に売り切れるので、13時前までに着いた方がいい。

本誌で紹介したカレー風味のローストチキンサンドのほうも、口にした途端に、いくつもの“カレー風味”と銘打った懐かしい味、スナック菓子やインスタントラーメンを思い出した。数枚入っているコリアンダーの葉が、心にくい清涼感を加えて、やはりこれも、クセになる味に仕上がっている。サンドイッチではないけれど、デザートのムース・オ・ショコラもおいしいですよ。おすすめです。

『Rôtisserie Segar』

111 rue Mouffetard 75005 ☎09­87­78­01­21 10:30~14:00 (土10:00〜) 16:30~19:30 日 10:00~14:00 月休 ローストチキン専門店。 サンドイッチは昼のみ販売。
111 rue Mouffetard 75005 ☎09­87­78­01­21 10:30~14:00(土10:00〜)16:30~19:30 日 10:00~14:00 月休 ローストチキン専門店。 サンドイッチは昼のみ販売。


文筆家 川村 明子

パリ在住。本誌にて「パリのサンドイッチ調査隊」連載中。サンドイッチ探求はもはやライフワーク。著書に『パリのパン屋さん』(新潮社)、『日曜日は、プーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)などがある。Instagramは@mlleakiko。Podcast「今日のおいしい」も随時更新。朝ごはんブログ再開しました。

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