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ベターライフを考える。「食器を買う」。 連載コラム : 鈴木ジェロニモ #2January 17, 2025
食器を自分で買ったことがない。実家にいたときは実家にあったものを使っていたし、一人暮らしのときは実家のものを持っていっていたし、それ以降は誰かしらと同居しているから誰かのものを使っている。コップや箸など、他の人と共有していないという点で自分のものと主張できる状態の食器もあるけれど、それらも自分で選んで買った訳ではなく、全て引き出物などでもらったものだ。前回花を買ってみて、「ベターライフ」とは自分の好みを自分で選んで買った先に見出せる感覚なのではないかと予感した。だから今回は、人生で初めて、自分で選んで食器を買うことにする。
食器売り場に行く。食器が並んでいる。食器売り場に食器が並んでいることは当たり前なのだけれど、「食器を買う」という目的を持ってそこに立つと、選択肢の多さに、そしてその全てが魅力的なことに、くらくらする。この無数とも言える選択肢の中からたったひとつを選ばなければならない。まずジャンルから考える。触れる機会が多くて使うたびに思い出して嬉しくなるもの。マグカップだ。家でお茶やコーヒーを飲むのが好きなので、マグカップは毎日使う。マグカップにしよう。マグカップのコーナーに行く。OK。さてどのマグカップにするか。未だに無数といって差し支えない選択肢の中から正面の、目線よりやや上の棚に目がいく。「波佐見焼(はさみやき)」。何となく聞いたことがある。赤、青、黄。3色のマグカップが並んでいる。意識が吸われるように、その3色のマグカップのどれかを選ぶことが自分の中で決まる。赤を持つ。青を持つ。黄を持つ。……ん? 黄を持つ。青を持つ。赤を持つ。あれ? 青を持つ。赤を持つ。うん。青を持つ。黄を持つ。やっぱりそうだ。青を持つ。これだ。青だけが、異様に軽い。持ち方とか、バランスとか、偶然そう感じただけなのかもしれないけれど、この青いマグカップだけが僕に持たれたがっていると思った。
edit : Sayuri Otobe
お笑い芸人、歌人、YouTuber、俳優 鈴木 ジェロニモ
