MUSIC 心地よい音楽を。
詩人 菅原敏さんが選ぶ土曜の朝と日曜の夜の音楽。vol.4January 26, 2024
January.26 – February.01, 2024
Saturday Morning

大学時代、ずっとローンを払っていた。御茶ノ水で買った銀色のテナーサックス。車が一台買えそうな金額だったが、バイトをして少しづつ返した。きらりと輝くそれを手に入れれば、どこへでも行ける、人生の切符になるような気がしていた。それから10年、方々で演奏した。次第に楽器の代わりに詩を朗読するようになり、そのうち音楽は作るものから聴くものに変わった。雪の降る土曜、借りものを返すように、買った店へと売りに行った。
銀色の切符は自分をどこへ運んでくれたのか。目眩ばかりの終着駅。この街にくると思い出してしまう。
アルバム『Blowin’ the Blues Away』収録。
銀色の切符は自分をどこへ運んでくれたのか。目眩ばかりの終着駅。この街にくると思い出してしまう。
アルバム『Blowin’ the Blues Away』収録。
Sunday Night

一月の終わり、街はもう梅の香りで満ちている。この街は梅の街。小さな山がひとつあって、色とりどりの梅の花が迎えてくれる。今の家に決めたのは、この小さな山が見えるからだった。毎朝窓を開け、季節ごとに表情を変える山の姿を眺める。散歩ついでに登っては夕焼けを眺めたり、月明かりで梅見をすることもあった。
大晦日の夜、そこで虫の声を聞いた。たった一匹だけの「リーリー」という声。あれは秋の虫の亡霊だったのか、それとも本当にいたのだろうか。そろそろこの街を離れる頃。あの夜にそっと録音した音を、もう一度聞いている。
EP『21SS』収録。
大晦日の夜、そこで虫の声を聞いた。たった一匹だけの「リーリー」という声。あれは秋の虫の亡霊だったのか、それとも本当にいたのだろうか。そろそろこの街を離れる頃。あの夜にそっと録音した音を、もう一度聞いている。
EP『21SS』収録。
詩人 菅原 敏

詩人。2011年、アメリカの出版社〈PRE/POST〉より詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』をリリース。以降、執筆活動を軸にラジオでの朗読や歌詞提供、欧米やロシアでの海外公演など幅広く詩を表現。 近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)ほか。 東京藝術大学 非常勤。
Photo:Kousuke Matsuki