FOOD 食の楽しみ。
京都に行ったら、ぜひともハシゴしたい。 小林かなえさんの店、京都・丸太町『シェリー メゾン ド ビスキュイ』のビスキュイサンドとパフェ。April 21, 2025
ベテランフードライター、P(ぴい)さんが教えてくれた、とっておきのおやつに出合える店。2025年4月10日発売の特別編集MOOK「おいしいPレミアム通信」より、特別にWEBでも公開します。
2023年9月、ビスキュイサンドで知られる小林さんの店『シェリー メゾン ド ビスキュイ』の姉妹店ができた。パフェをコースでいただける。京都に行ったら、ともかく両方ゲットしようではないか。正直、体重1㎏増かもだけど。

チョコレートならぬビスケット工場の秘密。
月曜日朝8時。店の2階にあるアトリエでは、真っ白いエプロンをかけた女子たちがビスケットにチョコレートがたっぷり入ったクリームを絞り、手際よくビスキュイサンドをこしらえていた。『シェリー メゾン ド ビスキュイ』店主の小林かなえさんが〝シェリーガールズ〞と呼ぶ精鋭部隊である。
さて、人生は不思議に満ちている。この店の店主とて例外ではない。短大に通っているときに、家の近くにパンとケーキの店がオープンした。パリの料理学校の店だった。フランス人シェフもいたりして、何かすごいなと思いながら、ここで生まれて初めてのアルバイトを始める。毎日が刺激に満ちて楽しかった。
それまで、ずっと何かしたかった。その「何か」が何かはわからなかったけれど。中学生のときに父の経営していた会社が倒産し、両親が離婚。専業主婦だった母が、何かしようと考えているのをそばで見ていて、自分も何かをしたいと思うようになっていた。母の役に立つことがしたいという思いも強かったに違いない。バイト先では、販売から製造アシストに移り、ついには自分もお菓子を作りたくなった。だが、自分には何の基礎もない。製菓学校に行くべきか。そのとき、先輩から「働いて覚えたほうがいい」と教わり、そのまま就職。ところがその店は2年で閉店。一緒に働いていた人が勤める店についていく。その店には研修制度があり、短い期間ではあったが、フランス・アルザスへ。その後、やはり製菓学校に入るべきだと思い直して、パリの「リッツ・エスコフィエ」の門を叩く。ともかく短期間でものにしないと、と必死だった。授業は必ず一番前、実技のときは先生の横に陣取った。半年間みっちり学び、先生からは「今までの生徒のなかで一番優秀」と褒められた。
卒業後は、ミーハー精神で「どうせなら三つ星で研修を」と『アルページュ』『ルカ・キャルトン』、五つ星ホテルの『オテル ドゥ クリヨン』と錚々たる名店へ。これ、すごいラインナップだが、すんなりいったわけではない。でも、小林さんの堅固な意志というかド根性で思いを叶えた。ケーキもだが、皿盛りを学びたくてホテル(クリヨン)に入りたかったが募集なし。ならば『アルページュ』にと思ったが、2回もアポをキャンセルされる。「こうなりゃ、シェフのアラン・パッサールに直談判しかない」と
食事に行くと、いたいた、パッサールさんが。そこでつたないフランス語で訴えたら、すぐに厨房に入れることに。そ、そんなことってあるんだ。もう一軒行きたかった『ルカ・キャルトン』へも。ほんとうに行きたかったクリヨンには、ルカ・キャルトンのシェフ、アラン・サンドランスさんが話をつけてくれた。
こうして望み通りの研究生時代を過ごし、もっとパリで学びたいと思ったが資金も底をつき、泣く泣く日本へ。パリのホテルで就職の道もあったが、自分はホテルで働くために勉強したわけではないと帰国するのである。


さぁて、これから何をしようか。「自分がパリで一番楽しかったのは何だろうと考えたら製菓学校だったんです」。そこで、お菓子教室を始めることにしたのである。24歳だった。たちまち大人気教室になり、全国からレッスンを受けに来てくれたものだから、朝昼夜と一日3回レッスンをすること15年。そろそろ店を開こうと、フルリノベーションした古いビルの1階を店舗にして開店。「生のケーキだと余ったものを捨てなくてはならなくなる。それがイヤなので、自分は捨てないケーキ屋さんを目指そうと思ったんです」。となると、焼き菓子が主体になる。地味だわ。そこで、「見た目がかわいくて、自分が手みやげにしたいものを作ろう。手みやげはパッケージなど全体コーディネートも大事」。こうして、かわいくておいしいビスキュイサンドが誕生した。これが瞬く間に大人気となって、WEBショップは瞬殺で売り切れ。店舗も行列に。
現在、焼き菓子が並ぶカウンターで、オープン当初はパフェも提供していたが、2023年、店から徒歩8分ぐらいの京町家にパフェ専門店を開いた。完全予約制、パフェを中心に据えた、一斉スタートのコース仕立ての店にした。スタッフのユニフォームも〝シェリーガールズ〞とは一変。ストライプのシャツにボウタイ。ちょっとメンズな雰囲気の、大人っぽい店にした。今や、ビスキュイサンドを買って、パフェも食べるファンが多いとか。では、ちょっと私も……。
京都市中京区福屋町733‒2(高倉通夷川上る) ☎075‒744‒1299 木金土12時30分〜16時 いちごとフランボワーズ、マロングラッセなど5種。各3240円。オンライン購入可。

京都市中京区相生町281(竹屋町通衣棚東入る)☎なし 月火金土10時〜13時〜 土祝15時〜 完全予約制 朝3850円、午後4400円。予約はWEBから。ここでもビスキュイサンド購入可。

写真/木寺紀雄、文/P(ぴい)
ライター 渡辺 紀子
