MOVIE 私の好きな、あの映画。
〈LAND〉主宰 川村あこさんが語る今月の映画。『オズの魔法使』 【極私的・偏愛映画論 vol.125】April 25, 2026
This Month Theme花や緑と暮らす家に惹かれる。

三角屋根の小さな家に根付く花々が、目に焼き付いて。
映画『オズの魔法使』は、花屋という私のアイデンティティーを手にするきっかけのひとつとなった、まさに極私的偏愛映画である。
子どもの頃、ドアを開けた瞬間に世界が変わるあの場面に心を奪われ、来る日も来る日もビデオテープを再生していた。セピア色の現実から一転して現れる極彩色の世界。黄色いレンガの道の始まり。流れる小川。お喋りする木々。カラフルな小人たちが次々と現れ、歌い踊る姿。三角屋根の小さな家。そしてそこに根付いている、てかてかに輝き揺れる大ぶりの花々。そこに広がる花たちは、それぞれが生きもののように見えて強く惹かれたのを覚えている。
自分の日常の中にはない色彩と、不思議な生きものたちがいる世界は、いつでも私を違う場所に連れて行ってくれた。時を経て、あの空想の景色のようなものを花で作れる人になりたいと思い、私は花屋を目指すことになる。
そして今でも、見たことのない花やヘンテコな花を市場で見かけるとつい買ってしまい、お店に並べたくなってしまう。画面の向こうにあった世界の気配を重ねて、嬉しい気持ちになる。お客様のイメージを汲み取りながら花束を作る中で、自分らしさが宿るとするならば、それはそんなファンタジーの気配なのだと思う。
何者かになりたいのに、自分の不甲斐なさに何度も打ちのめされた修業時代。だが、どんなに他人に憧れたとしても自分以外の何者にもなれないのだということ。無いものを外に求めるのではなくて、すでに手の中にあるものに目を向けるということ。
30代になり、ある種の諦めのようなものが、肩の力を抜いて今を楽しむことを許してくれた気がする。主人公であるカンザスに住む11歳の少女、ドロシーたちが旅の終わりに知るのもまた、気付けば自分たちが既に持っていたものの存在だった。
私にとって花や緑と暮らすということは、あの時に見た世界を、ほんの少し日々の中に引き寄せる行為なのかもしれない。今は自分の手の届く範囲で、それを楽しんでいる。


『オズの魔法使』
Director
ヴィクター・フレミング
Screenwriter
ノエル・ラングレー
フローレンス・ライアソン
エドガー・アラン・ウルフ
Year
1939年
Running Time
101分
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『オズの魔法使』 デジタル配信中
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン
ブルーレイ&DVD発売元/販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©1939 Turner Entertainment Co. and Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
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illustration : Yu Nagaba movie select & text:Ako Kawamura edit:Seika Yajima





























